(第6回)お上のデータだから正しいとは限らない:修正を余儀なくされた厚労省資料「ワクチン接種歴別の新規陽性者数」

コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2022.09.15
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.

(毎月中旬更新予定)

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」で使用された資料、と聞いたら、みなさんはその資料にどのような「質」を期待するだろうか。それを参考に感染症対策が決定されていく資料である。感染状況を正確に反映した、科学的に質の高いものを求めるのではないだろうか。

しかし、実際には、そうではないようだ。2022 年 $4\sim 5$ 月にかけて、上記委員会の資料の 1 つ「ワクチン接種歴別の新規陽性者数」に問題のあることが判明し、資料は修正を余儀なくされた。

問題を指摘したのは、名古屋大学の小島勢二名誉教授である[1]。2022 年 1 月の時点で、オミクロン株に対するワクチンの予防効果は、海外の報告では $20\%$ にまで落ちこんでいた。それに対して、日本の報告では相変わらず $90\%$ だった。「これはおかしいな。日本人は特別かな」というわけである。

指摘を受けて調べてみたところ、集計方法に大きな欠陥があったことが判明した。そして、2022 年 4 月 11 日のデータから修正が施された。詳しく見ていこう。

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麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.