ロシアによるウクライナ軍事侵攻(岩月直樹)

法律時評(法律時報)| 2022.05.09
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
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月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻5号(2022年5月号)に掲載されているものです。◆

1 衝 撃

2022年2月24日早朝、プーチン・ロシア大統領はテレビ演説を行い、ウクライナに対して「特別軍事作戦」を実施する旨を宣言。これをうけてロシアはウクライナ領内への大規模な軍事侵攻を開始した。ロシア軍は東部を中心にウクライナの北部および南部国境地帯に展開、首都キーウ(キエフ)をはじめ主要都市を包囲するに至った。ウクライナ側の善戦により膠着状態となっているが、本稿執筆時点(3月25日)で確認されているだけでも一般市民への被害は死傷者2,788人(内、死者1,081人)にのぼり1)、およそ650万人が国内避難民となり、360万人以上が国外に保護を求めることを余儀なくされている2)

4月に国境付近へのロシア軍部隊の増強が報じられた時から、ロシアは一貫して軍事演習を目的とするものであって、侵攻の意図はないとしてきた。それが真意とは異なることは明らかであったものの、しかし東部のドンバス地方にとどまらず(同地方では2014年以降、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を自称する親ロシア派武装勢力がロシアによる支援を得て、ウクライナ政府との間で戦闘を続けていた)ウクライナ全土を対象とした大規模な軍事侵攻を実際に開始するとは考えにくいと思われていた。こうした見込みは、あえなく裏切られた。その衝撃の大きさは、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア主要銀行の排除や、最恵国待遇(MFN)のロシアへの適用停止といった通常では見られない強い経済的措置に、欧米諸国が果断に踏み切ったことにもあらわれている。

国連安保理では米国とアルバニアが直ちに、ロシアの侵攻を国際法に重大に違反する「侵略行為」であると非難し、ウクライナ領内からの即時撤退を求める決議案を提出した。これには異例にも、非理事国80ヶ国が草案起草国として名を連ねた3)。ロシアの拒否権により採択に至らなかったものの、これをうけて安保理は、「国際の平和と安全」について自らが担う責任を遂行することが妨げられたことを宣言、総会に対して「平和のための結集決議」(1950年国連総会決議377A(V))に基づく緊急特別会期を開くよう要請した4)。総会では、上記決議案の内容に加え、ベラルーシに対してウクライナに対する違法な武力行使への関与を慎むことをも盛り込んだ決議を、141ヶ国という圧倒的多数の賛成(反対5、棄権35)によって採択した5)

こうした国連内外の動きは、今回のロシアによるウクライナ侵攻が国連憲章を基軸とした第二次世界大戦後の国際秩序のあり方それ自体を揺さぶる衝撃を持つものとして、多くの国によって受けとめられていることを示している。

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脚注   [ + ]

1. OHCHR, Ukraine: Civilian Casualty Update, 25 March 2022.
2. UNHCR, Ukraine Situation Flash Update #5, 24 March 2022.
3. UN Doc. S/2022/155(25 February 2022).
4. UN Doc. S/Res/2623(27 February 2022).
5. Aggression against Ukraine, UN Doc. A/Res/ES – 11/1(2 March 2022).