「法律上の争訟」に関する宝塚判決の拡大適用の終焉?:大阪高裁2021(令和3)年4月22日中間判決と福岡高裁那覇支部2021(令和3)年12月15日判決(人見剛)

判例時評(法律時報)| 2022.04.12
一つの判決が、時に大きな社会的関心を呼び、議論の転機をもたらすことがあります。この「判例時評」はそうした注目すべき重要判決を取り上げ、専門家が解説をする「法律時評」の姉妹企画です。
月刊「法律時報」より掲載。

(不定期更新)

◆この記事は「法律時報」94巻4号(2022年4月号)に掲載されているものです。◆

大阪高裁2021(令和3)年4月22日中間判決、福岡高裁那覇支部2021(令和3)年12月15日判決

1 「法律上の争訟」に関する最高裁の宝塚判決とその拡大適用

宝塚市パチンコ店等規制条例事件=最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁は、同市のパチンコ店等規制条例に基づく市長の同意を得ずにパチンコ店の建設工事に着手した事業者に対して市が工事の続行禁止を求めた訴訟について、そうした訴訟は、裁判所法3条1項の定める「法律上の争訟」には当たらないとして却下したものである。その理由は、「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。」と説明された。

この判決は、行政権の主体が国民に対して義務を課しその履行を求める関係における紛争が、自ら引用しその判示の前提としている「法律上の争訟」に関する先行判例である板まんだら事件=最判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁の判示にいう「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争」ではないかのごとく述べているようにみえることも含めて多くの疑問と批判が寄せられ、学界では四面楚歌の判例であった1)。したがって、少なくともこの判例の射程を限定することが必要と考えられ、例えば福間町公害防止協定事件=福岡高判平成19年3月22日判自304号35頁は、宝塚判決「の帰結は、地方公共団体等の行政主体の国民に対する義務履行請求を著しく制限するものであるから、その射程距離は極力控え目に解するべきであ」ると判示し、同事件=最判平成21年7月10日判時2058号53頁は、結論として自治体の提起した公害防止協定の履行請求訴訟を適法な訴えとして認めている。また、宝塚判決の主眼は行政上の義務の民事執行を否定するところにあり、その点に判示の射程を限ることも説かれていた2)

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脚注   [ + ]

1. 参照、村上裕章「行政主体間の争訟と司法権・再論」同『行政訴訟の解釈論』(弘文堂、2019年)1頁以下、曽和俊文『行政法執行システムの法理論』(有斐閣、2011年)157頁以下、人見剛「地方公共団体の出訴資格再論」磯部力先生古稀記念『都市と環境の公法学』(勁草書房、2016年)199頁以下。
2. 参照、塩野宏『行政法Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣、2019年)299頁。