残土規制のデザインをめぐって─2021 去りし夏の夜の夢(池田直樹)

法律時評(法律時報)| 2021.10.06
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」93巻11号(2021年10月号)に掲載されているものです。◆

口笛を吹いてもむだと知った風は、
その仕返しに海から毒気をふくんだ霧を吸い上げ、
陸地にたえまなく降らせ続ける

シェークスピア「夏の夜の夢」(小田島雄志訳、白水社より)

1 災害、そして災害

轟音を立てて全てを飲み込みながら斜面を暴走する黒い土石流、飛び散る火花、逃げる消防隊員……。20名を超える人命が奪われた熱海の土石流災害の瞬間を息を呑んで見つめながら、私は「安全な」場所からのぞき込んでいるというあの日と同じ胸のつかえに襲われていた。

2021年10月号 定価:税込1,925円(本体価格 1,750円)

1995年1月17日。留学からの帰国直後の西宮のマンションで震度7の激震を経験した私は、田舎の家族に連絡するための公衆電話を求めて住宅街をさまよううちに、仁川百合野町の坂道にたどり着いた。ロープが張られた行き止まりの先には、谷の小川の対岸まで埋め尽くしたむき出しの土砂から倒壊した家屋の残骸が突きだし、白煙が立ち上っていた。ほんの数時間前、火の手迫る中で近隣の人々による救助のための壮絶な闘いがあったこと、34名の方々があの土砂に埋もれ亡くなったこと1)、現場は40年前の浄水場建設時に出た残土で20mの深さまで斜面を固めた場所であったこと、豊富な地下水で帯水した盛土層と地震とが地すべりを起こしたことなどは、全て後で知った2)

そして2021年夏。熱海の土石流、台風9号による青森の災害に、8月11日から九州を中心に全国で降り続いた記録的な豪雨災害が続いた。しかも日々悪化するコロナ禍。安全と危険とを仕切る「ロープ」は無いのか。あの日傍観者にすぎなかった自分に今できることは無いのか。寝苦しい夏の夜が続いた。

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脚注   [ + ]

1. 神戸新聞NEXT「1995・1・17から1 埋もれた記憶 西宮・仁川の地滑り(1)~(10)」(2004年1月10日~1月24日)。
2. 釜井俊孝「阪神淡路大震災から15年を経て~わかったこと、わからなかったこと~斜面災害編」【PDF】自然災害科学29巻1号(2010年)3頁。