韓国の非常戒厳と弾劾訴追(水島玲央)

法律時評(法律時報)| 2025.03.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
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月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」97巻4号(2025年4月号)に掲載されているものです。◆

1 2024年の非常戒厳の余波

最近、隣の韓国で大変なことが起きている。昨年12月3日の夜、尹錫悦ユン・ソンニョル大統領は突如戒厳令を宣布した1)。その際に発表された国民への緊急談話によれば、野党(共に民主党)が多数を占める現在の国会が若者の雇用や子育て、治安維持などの政策のための予算案の削減を行ったり、長官や検察官などの公務員の弾劾訴追を乱発したり、また裁判官を脅したりするなど、行政府や司法府を麻痺させてきたとする。そこでこうした反国家行為を止めるため、自由大韓民国を守るために非常戒厳令を宣布するとした2)

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この非常戒厳令では、国会や地方議会などの集会を禁止し、言論や出版は統制され、違反した者には令状なくして逮捕・捜索を行えるとした。そして国会を封鎖するために軍を国会議事堂に向けて派遣したが、軍が到着する前に、190人の国会議員が夜間に国会議事堂に集まって全会一致で解除の議決を下したため、戒厳令はわずか6時間ほどで解除された。

憲法の両輪である基本的人権と権力分立を制約する戒厳令は、自由大韓民国を守るための方法としては、あまりに突拍子もないことであった。戒厳令が失敗すると、野党は速やかに反撃に出た。可決されるまで弾劾訴追案を提出するとし、12月14日に二度目で可決された。これにより尹錫悦大統領の職務は停止され、韓悳洙ハン・ドクス国務総理が権限代行を務めることになった。

憲法裁判所で弾劾審判を進めるにあたり、9名中3名の裁判官が任期を終えて欠けていた。裁判官の任命は大統領の権限であるが(憲法111条2項)、韓悳洙国務総理は自身が大統領ではないとして新たな裁判官の任命を保留した。そこで野党は12月26日に韓悳洙国務総理の弾劾訴追案を提出し(翌日に可決)、国務総理までも職務停止としてしまった。そのため現在では崔相穆チェ・サンモク経済副総理兼企画財政部長官が「権限代行の代行」を務めるという、異常な事態となっている。

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脚注   [ + ]

1. 2024年の韓国の戒厳令については、水島朝穂のHP「直言」2024年12月11日、で解説記事を寄稿したことがあるので参照されたい。
2. “윤석열 대통령 긴급 대국민 특별담화”, 대한민국 정책브리핑, ( 검색일: 2025. 1. 23.)