家庭裁判所見学記:東京家庭裁判所を見学してきました
2024年NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主人公モデル、三淵嘉子は、家裁の創設にかかわり、女性初の裁判所長となったのも、新潟家裁でした。
社会のなかで弱い立場の人々を支援するという、一貫した理念をもつ家庭裁判所。
Web日本評論編集部で、家庭裁判所見学に行ってきました。そのときの見たまま、感じたままをレポートします。
連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)が話題です。私たちWeb日本評論編集部は、主人公・寅子のモデル三淵嘉子さんが設立にかかわり、裁判官としても活躍した家庭裁判所がどんなところなのか気になって、今回は東京家庭裁判所に行ってみることにしました!
◆◇これまでの「体験」シリーズ
裁判傍聴体験記:裁判傍聴に行ってみました/国会議事堂見学記(編集部)
東京家庭裁判所の見学申し込み
家庭裁判所で行われている審判などの傍聴はできるのでしょうか。まずは東京家庭裁判所ウェブサイトの見学・傍聴案内を確認します。
東京家庭裁判所では、家庭裁判所への理解を深めていただくため、審判廷や調停室等の事件関係室の見学を実施しています(家庭裁判所で扱う事件は一部を除き非公開のため、実際の審判事件や調停事件は傍聴できません)。参加人数(最大15名程度)や希望内容を伺って調整をさせていただきますので、下記連絡先までご相談ください。なお、実施時期や見学先の審判廷等の空き状況等により、ご希望に沿えない可能性もございますので、ご了承ください。……
家庭裁判所で扱う事件は基本的に非公開……ということで、今回は見学を申し込んでみました。
東京家庭裁判所は、見学したい日の2週間ほど前までに、事務局総務課広報係に電話で申し込みをします。この時点で、見学したい場所(法廷など)の確認と、DVDの視聴が可能であることが伝えられました。私たちは、法廷や審判廷、調停室、医務室などの見学と、家事調停と少年審判のDVD視聴を申し込みました。なお、庁舎内は撮影禁止で、また、見学を申し込んでいても、当日事件等で見学予定の場所が急きょ見学できなくなることもあるようです。
見学の許可が出ると、待ち合わせ場所が指示されます。私たちは、平日の10時~12時に見学することになりました。
いざ東京家庭裁判所へ
東京家庭裁判所は、東京メトロ丸ノ内線霞ヶ関駅のB1a出口から徒歩約1分のところにあります。霞ヶ関駅から地上に出ると、左側が弁護士会館で、その隣が東京家庭裁判所です。
来庁者用の入り口(弁護士など法曹関係者とは入口が異なります)から入ると、荷物検査があります。空港の手荷物検査と同じ要領で、バッグとポケットの中身を検査の機械に通してもらい、自分自身も身体チェックのゲートをくぐります。
職員のかたとの待ち合わせは、1階玄関ホールにある像の前です(ちなみに玄関ホールには「To Where」と「母子像」という2体の像がありました)。これらの像の周辺にはソファが置いてあります。座って待っている人がたくさんいました。
家庭裁判所関係のパンフレットなども玄関ホールに置かれており、自由に持ち帰ることができます。パンフレットは、家庭裁判所ウェブサイトでも閲覧できるようです。
「To Where」像の前で待っていると、職員のかたが玄関ホールにいらっしゃいました。
「本日は東京家庭裁判所の見学ということで、よろしくお願いします。家庭裁判所の部屋の見学前に、選んでいただいたDVDを視聴していただきます。それではエレベーターで上の階にご案内します」。
東京家庭裁判所は、家庭裁判所と簡易裁判所(民事)が同じ建物内にあるため、家庭裁判所用エレベーターと簡易裁判所エレベーターが別々になっています。家庭裁判所用のエレベーターは総合案内を背にして奥側にある4台、簡易裁判所用のエレベーターは手前にある3台です。
動画視聴
家事調停
まずは、研修室という部屋で、動画を視聴します。はじめに、家事調停について解説する動画「ご存知ですか?家事調停」(約10分)を視聴しました。
家事調停制度とは、離婚・相続など家庭についての紛争(家事事件)を話し合いによって解決する制度です。家事調停は、裁判官1名と調停委員男女各1名からなる調停委員会の主催で行われます。そのほか必要に応じて、記録の作成保管などを担う裁判所書記官、心理・精神医学・教育・社会学などの見地を用い面接を行う家庭裁判所調査官、精神科や内科の医師である裁判所技官が参加することもあるそうです。
家庭裁判所での手続について、詳しくは「家庭裁判所で行っていること──家裁が扱う事件と手続(石塚章夫)」をご覧ください。
少年審判
つぎに、少年審判について解説する動画「少年審判~少年の健全な育成のために~」(約40分)を視聴しました。
この動画は、家庭裁判所調査官の立場から見た少年審判の様子を再現ドラマにしてあり、手続の流れや家庭裁判所調査官の仕事をわかりやすく学べるものです。
家庭裁判所調査官について、詳しくは「『愛の裁判所』って何だろう? 家裁調査官に聞く(高島聡子)」をご覧ください。
庁舎見学
動画を観終わった後は、休憩をはさんで、人事訴訟法廷、家事審判廷、家事調停室、少年審判廷、児童室、医務室を見学しました。
人事訴訟法廷
人事訴訟とは、離婚や認知など、夫婦や親子等の関係についての争いを解決する訴訟をいいます。夫婦や親子等の関係についての争いは、基本的に話し合いによって解決するため、まずは家事調停を申し立てます。家事調停では解決しないとき、人事訴訟を起こすことになります。
人事訴訟で使用される、「家裁第141号法廷」を見学しました。東京家庭裁判所では最も大きい法廷だそうです。法廷は以下のようになっています。
法廷の外の廊下には、開廷中かどうかを示す表示灯と、事件番号や事件名を表示する掲示板があります。
この法廷の特徴は、裁判官の席がほかの席より1段高くなっていることと、傍聴席が設けられていることです。地方裁判所の法廷と似た配置になっています。床にはカーペットが敷かれていました。
「きれいで立派な法廷ですね」。
傍聴席が設けられているのは、人事訴訟が公開で行われるためです。人事訴訟では、裁判官は法服を着用するそうです。
家事審判廷
「家事第10審判廷」を見学しました。この審判廷があるフロアは、ハーグ条約(子の連れ去り)関係の事件で使うことがあるからか、英語での案内が併記されています。審判廷は以下のようになっています。
家事審判は、家事調停が不成立の場合などに行われます。人事訴訟法廷とは違い、床は全面フラットで、裁判官の席が1段高くなっていたりはしません。裁判官は法服を着用せず審判を行います。
「この審判廷は、それぞれの席にマイクが設置されていないですね。部屋がさほど大きくなく、参加者全員が近いところに着席するからでしょうか」。
ハーグ条約関係の事件を扱うこともあり、日本語がわからない外国の人が当事者になることもありますが、家庭裁判所の職員の中に通訳人はいないそうです。見学中にも外国の人を見かけたので、家庭裁判所にも普段から通訳人がいて、外国の人が充分なフォローを受けられるとよいなあと感じます。
家事調停室
家事調停室は、法廷や審判廷と違って、壁には絵画が飾られていたり、半透明のガラスが入っている箇所もあったりして、やわらかい雰囲気の部屋になっていました。和やかな雰囲気で話しやすくするためにこのようにしていると説明がありました。
部屋の中央に4人掛けのテーブルが1つ置かれています。ここに男女1人ずつの調停委員と当事者が着席します。当事者は1人とは限らないので、予備の椅子も部屋の片隅に置かれています。調停の成立不成立の判断をするときには、調停委員の間に裁判官が座ります。
「大人が2人横並びに座れば肩が触れ合いそうなくらいの、想像していたより小さなテーブルですね」。
家事調停室のテーブルは小さくて、席に座ってみると、同じテーブルについた人との距離がかなり近いと感じました。裁判官や調停委員には、話し合いの場として当事者が話しやすい雰囲気をつくる能力が求められるように思いました。
調停委員は、非常勤の裁判所職員で、原則として年齢は40歳以上70歳未満、弁護士、医師などのさまざまな資格を持った専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれるそうです。家庭裁判所では、法曹だけでなく、調停委員、家庭裁判所調査官など、法曹資格を持たない専門家も大きな役割を担っています。
家事調停室を出ると、申立人待合室と相手方待合室があります。この2つの部屋は、家事調停室を挟んで反対側にあり、少し離れています。家事調停では、申立人と相手方が別々に調停委員と面接するため、このような部屋が設けられているそうです。
少年審判廷
「少年第2審判廷」を見学しました。少年審判廷は以下のようになっていました。
人事訴訟法廷とは違い、裁判官の席が他より1段高くなっていたりはしませんでした。裁判官と少年の目線が合うように、床の高さを同じにしているそうです。少年審判では、裁判官は法服を着用しません。
裁判官と少年の席に座ってみました。
「座ってみると、たしかに目線が合いますね」。
検察官や裁判所事務官、警察官、少年鑑別所職員などが座る席も用意されています。
見学した少年第2審判廷には、傍聴席がありました。傍聴席がある少年審判廷は、東京家庭裁判所内ではここだけだそうです。審判は原則として非公開で行われるため、通常は審判の傍聴はできませんが、「被害を受けた方のための制度」の1つとして、「被害者が死亡したり、生命に重大な危険が生じたりした場合」は、被害者やその遺族は、許可されれば審判を傍聴することができるそうです。
少年審判廷では、裁判官が法服を着ることはないものの、家庭裁判所調査官、裁判所書記官、付添人に加え、検察官や少年鑑別所職員が同席するとなるとかなり大人数で、緊張感が漂うのではないかと感じました。とはいえ、裁判官と少年の目線が同じ高さであることは、上から判決を言い渡される通常の裁判と異なり、少年の健全育成という家庭裁判所の性質がよく表れているように思いました。
児童室・準備室
家事事件の当事者に子どもがいるときに使用する児童室と、その隣にある準備室を見学しました。東京家庭裁判所には、児童室が2つあるそうです。
児童室は床にマットがひいてあり、靴を脱いで上がるようになっています。室内には、テーブルとさまざまなおもちゃや絵本が置かれています。
「アンパンマンやプラレール、人生ゲームなど、子どもにも大人にも親しみのあるおもちゃを選んで置いているのでしょうか。自分が子どものころに遊んだものもあります」。
この部屋では、家庭裁判所調査官が、子どもと遊びながら話を聞いたり、面会交流関係で、しばらく子どもと会っていないほうの親が子どもと遊ぶのに使用したりするそうです。
児童室の壁は一部鏡になっている箇所があります。この鏡はマジックミラーになっていて、その壁の隣にある準備室で様子を見ることができるようになっています。児童室にはカメラも設置してあり、その映像も準備室で確認できます。
医務室
医務室は廊下から見学しました。調査官室の一角で、カーテンで仕切られており、中は見えないようになっていました。東京家庭裁判所には、裁判所技官(医師)1名と看護師が1名在籍しているそうです。
医務室があるのは、家庭裁判所の特徴の一つだそうで、家庭裁判所の創設期に、精神病院に入院させるときには家庭裁判所の許可が必要となり、精神科医に判断してもらうため、医務室を設置したそうです。「虎に翼」寅子のモデル三淵嘉子さんも、医務室について、「本当に精神科のお医者さんがいらっしゃるといいですね、家裁としては。」と語っていました1)。
現在では、家庭裁判所調査官の調査に立ち会うなど、裁判所技官の役割は変化しているそうです。
玄関ホールに戻って
総合案内所の両脇には、東京家庭裁判所が現在の場所に移る前からあるという、ステンドグラスが飾られています。ルイ・フランセンの「希望」という作品で、向かって右が成人をあらわす「アサガオ」、左が少年をあらわす「サクラ」です(東京家庭裁判所ウェブサイト)。2種類の花をいっしょに飾ることで、異なるものの調和と、譲り合う精神を表現しているそうです。
見学を終えたら地下1階にある食堂へ。お昼どきで盛況です。6種類ほどあるランチメニューは、どれも1,000円以下で食べられます。ランチの営業は、11時30分~13時でした。同じフロアにはコンビニエンスストアもあります。
また、地下1階には、東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎への連絡通路があります。東京家庭裁判所の見学にあわせて、東京地高裁での裁判を傍聴する場合などは、連絡通路を通ると荷物検査がなくスムーズです。東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎には、食堂やコンビニエンスストア、書店、郵便局などがあります。
東京家庭裁判所見学を終えて
家庭裁判所にどんな部屋があって、どんな配置になっているのか実際に見たのは初めてでした。法廷、審判廷、家事調停室は、部屋の大きさや置いてある机や椅子の数も全然違っていました。
法廷、審判廷、家事調停室では、室内を自由に歩いて回ることができました。家事調停室の小さなテーブルで裁判官の席から当事者席に向き合ったり、少年審判廷で少年の席に座って裁判官の席を見つめたり。以前に見学した地方裁判所(や人事訴訟法廷)との違いも体感できました。
最初に動画(家庭裁判所に来る人に最初に見てもらうためのものだそう)を視聴したので、手続を思い出しながら見学できたのもよかったです。
庁舎の廊下は、碁盤の目状になっていて、当事者同士の待合室が接近しないように工夫されているようでしたが、想像していたよりは、鉢合わせしない仕様にはなっていないと感じました。
「虎に翼」の多岐川幸四郎さん(「家裁の父」と呼ばれた宇田川潤四郎さんがモデルと思われます)の「愛の裁判所!」という声を脳内で再生しつつ帰途につきました。創設時からの福祉的な考え方が、時代ごとにどのように具体化されたのか(あるいはされなかったのか)、もう少し調べてみたいなと思いました。
東京家庭裁判所では、年間20組ほどの見学申し込みがあるそうです。「虎に翼」で家庭裁判所に関心をもったみなさん、家庭裁判所見学に行ってみてはいかがでしょうか。
(編集部)
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脚注
1. | ↑ | 清永聡編著『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社、2023年)135頁。 |