家庭裁判所で行っていること──家裁が扱う事件と手続(石塚章夫)
2024年NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主人公モデル、三淵嘉子は、家裁の創設にかかわり、女性初の裁判所長となったのも、新潟家裁でした。
社会のなかで弱い立場の人々を支援するという、一貫した理念をもつ家庭裁判所。
現在、家裁ではどんな事件を扱い、どういった手続を行うところなのでしょうか。実際にその手続にかかわるのはどのような人たちなのでしょうか。まずは、家庭裁判所ならではの手続である審判・調停などを、新潟家裁所長の経歴をもつ石塚弁護士が解説します。
皆さんは、家庭裁判所ではどのような事件を扱い、どのような手続が行われているか、ご存じでしょうか。
大きく分けて家事事件と少年事件があります。
家庭裁判所で行われる主な手続の概要を、図にしてみました。
家事事件の中には、離婚、遺産分割等争いのある事件を調停・審判・裁判といった手順で解決をはかるものと、成年後見や遺言書の検認等争いはないが裁判所が監督等をするものとがあります。
少年事件とは、14歳以上20歳未満の少年が罪を犯した事件(犯罪少年事件)、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした事件(触法少年事件)、18歳未満でまだ罪を犯してはいないけれども性格や環境から将来罪を犯すおそれのある少年の事件(ぐ犯少年事件)です。
これからそれぞれの手続を説明しますが、2024年NHK連続テレビ小説「虎に翼」で出てきたシーンを思い出すとわかりやすいので、それにも触れながらみていきましょう。
1 離婚事件
結婚した夫婦が離婚をする場合、家裁に来ることなく、話し合いのみで離婚する協議離婚、家裁の調停を経て離婚する調停離婚、調停がまとまらずに審判や裁判で離婚の成否を決める審判・裁判離婚があります。2022年の統計では、協議離婚が約88%を占め、調停離婚は約8%です。
「虎に翼」では、妻の不貞を理由として夫から離婚の調停が申し立てられ、妻も離婚には同意しているのですが、妻は母国のフランスに帰りたいので、2人の間の子供の親権者にはなりたくないと主張し、夫の方も子供は母親が引き取るべきだと主張して対立した事件がありました。そして、この子供が事件を起こして少年部に送られ、少年鑑別所に入れられてしまったのです。寅子たちがいろいろ努力をして、夫の親族が少年を引き取ることになり、最終的には事件は不処分で終わりました。
家事事件と少年事件を同じ家庭裁判所で扱うことができたからこその結論だと思います。
ちなみに、離婚事件の場合には、離婚の原因を作った側に相手方に対する慰謝料支払の義務が生じて、その額が争いになったり、結婚生活中の夫婦で作った共同の財産を離婚に当たってどのように分割するかという財産分与が争点になったりします。
また、戦後の新しい民法が施行された「虎に翼」の時代から最近まで、離婚に際しての未成年者の親権者は夫婦のどちらか一方がなるとされていましたが、今年(2024年5月)の改正で「共同親権」といって、離婚後の夫婦2人が共同で子の親権者になる場合があるという制度が導入されました(2026年までに施行)。
2 遺産分割事件
財産を持っている人が死亡した場合、親族がその遺産をどのように引き継ぐかを決めるのが相続手続です。現民法では、相続人になることができる人とそれらの人たちの相続分が定められています。離婚の場合と同様に、家裁に来ることなく、遺産分割協議書を作成して相続人同士で分割の方法を決める場合が多いのですが、その話し合いがつかなかった場合には家裁で分割を決めることになります。また、遺言がある場合には、そこに書かれている分割方法が優先しますが、遺留分制度と言って、遺言によって、相続を期待できる人が法律で定められた相続分を下回ったり相続人から外された場合、ある程度までの回復を求めることができる制度があります。
「虎に翼」では、大庭梅子さんの夫が死亡したことから相続問題が発生しました。梅子さんは離婚しているので元夫の遺産の相続権はありませんが、梅子さんの子供たちが相続人になり、話し合いの場では、長男が戦前の民法の考えで自分が全部相続すると主張しました。結局話し合いがこじれて調停になったのですが、元夫に愛人がいて、その愛人が、遺産の全てをその愛人に相続させるという遺言書を提出しました。しかし、その席上で、遺言書が偽造であることがわかり、最終的には、子供たちで遺産を分け合うことで解決しました。話し合いがつかない場合には審判といって、裁判官が分割方法を決めるのですが、この場合には、そこまで行かずに解決したのです。
なお、戦前の民法では、家督相続といって、遺産は「家」のものであり、長男がすべてこれを相続するとされていたのですが、戦後の民法では、「家制度」が廃止されて、法律で定められた相続人が、これも法律で定められた相続分にしたがって遺産を相続するようにあらためられました。その相続分は、以前は、配偶者(多くの場合は妻)と子供が相続人の場合、配偶者(妻)の相続分は3分の1(子の相続分は3分の2)とされていたのですが、1980年の法改正で、配偶者(妻)の相続分が2分の1に引き上げられました。実際上、妻の地位が高められたわけです。
3 解決のための手続──調停・審判・裁判
離婚事件にしろ、遺産分割事件にしろ、家庭裁判所では、まず「調停」といって、話し合いの場が持たれます。調停は、裁判官(調停主任)1名と民間から選ばれた調停委員2名の3名で構成される調停委員会が主催します。調停委員は非常勤の国家公務員ですが、豊かな経験を生かして、家庭内の問題の解決に努めます。
「虎に翼」の場面では、当事者双方が同じ部屋で同席して話をする場面が多かったですが、別々に話を聞いて、それを調停委員が相手方に伝えて話し合いを仲介するという方法がとられることもあります。
調停での話し合いがまとまらない場合には、離婚については、訴訟手続といって公開の法廷の場で双方が主張と証拠を出し合い、裁判官が判決で結論を出します。この手続は、従前は地方裁判所で行われていたのですが、2004年から家庭裁判所で行われるように法律が改正されました。家庭裁判所の役割が重くなったといえるでしょう。
遺産分割について調停での話し合いがまとまらなかった場合には、審判手続といって審判廷(非公開)で双方が主張と証拠を出し合い、審判官(裁判官)が審判で結論を出します。
4 少年事件
少年が刑法や刑罰の定めのある法律に抵触する行為をした場合には、成人と同様、主に警察が取調べをします。場合によっては逮捕することもあります。成人との一番の違いは、少年事件は全てを家庭裁判所に送らなければならない、という点です。可塑性に富む年齢ですので、一律に刑罰を科すのではなく、事件の背景を家庭裁判所の目で調べて、その少年にふさわしい処分を決めるわけです。これを「保護処分」と言います。少年院へ送致する処分や社会内で保護司等の援助を受けて更生を図る保護観察処分等があります。どうしても保護処分では対応できないという場合には、家庭裁判所が事件を検察庁に送って、検察庁が地方裁判所に起訴して成人と同じような裁判を求める手続も定められています。
1の「離婚事件」のところで出てきた、離婚に伴う親権者が決まらない少年の事件は、最終的に親族が少年を引き取ることになり、これ以上保護処分に付す必要はないと判断されて「不処分」という審判が言い渡されました。
ところで、「少年」は何歳までの少年少女をいうのか、ご存じでしょうか。
少年法は、原則として14歳以上20歳未満の人を対象としています。1970年ころ、少年の凶悪事件が相次いだことをきっかけに、18歳以上20歳未満の少年を「青年」として保護処分から外して刑罰の対象にしようとする「少年法改正」問題が持ち上がりました。このときは、家庭裁判所や弁護士会の反対で改正には至りませんでした。しかし、民法の成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせて、18歳と19歳を「特定少年」と位置付けて家庭裁判所から検察官に逆送致する事件の対象を拡大するなどの法改正が行われました。
5 その他の事件
これまで家事事件と少年事件をみてきましたが、家庭裁判所は、それ以外にも大変多くの事件を扱っています。以下に少し紹介しましょう。
(1) 成年後見事件
「虎に翼」の時代には考えられなかった高齢化の進行で、判断力が衰えた高齢者の財産等をどのようにして守るかという深刻な問題が生じてきました。これに対応するために作られた法制度が成年後見制度です。
精神科の医師等の診断に従い、判断力が衰えた高齢者等について、段階に応じて「補助」「保佐」「後見」という3つの類型を作り、それぞれ、補助人、保佐人、後見人を選任して高齢者等の財産を保護する任に当たります。これらの選任手続と、選任後の事務の監督を家庭裁判所が担っています。
(2) 相続放棄手続
亡くなった方に財産がある場合には2で述べたような遺産分割の問題となりますが、財産が全くなかったり、逆に借金が残されている場合には、負債を引き継がないようにするために相続放棄の手続をとる必要があります。これは亡くなったことを知ったときから3ヵ月以内の手続をとらなければなりません。
(3) 遺言書の検認
亡くなった方が公正証書ではない自筆の遺言書を作成していた場合には、その遺言書について検認の手続をとる必要があります。家庭裁判所に遺言書を持参して、遺言書がどのようなものであるのかを確認してもらう手続です。
(4) その他
その他、婚姻費用の分担、養育費の支払、ドメスティック・バイオレンス(DV)を原因とする接近禁止処分、戸籍の無い人について新たに戸籍を作る就籍、名前の変更、児童福祉法に基づく諸手続等など、家庭裁判所は家庭と子供に関する多くの仕事を担当しています。
このように、家庭裁判所は幅広い分野の問題に対応しているのですが、それを支えている大きな枝が家庭裁判所調査官です。専門の教育を受け、事件の調査と同時に解決方向についての意見を裁判官に提出します。
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家裁調査官の仕事については
・「愛の裁判所」って何だろう? 家裁調査官に聞く(高島聡子)
・連載 ただいま調査中! 家庭裁判所事件案内(高島聡子)
特集「家庭裁判所ってどんなところ?」の記事をすべて見る
弁護士。
1969~2007年まで裁判官。
2001年12月福岡高裁民事部総括判事、2004~2006年新潟家庭裁判所長(19代目。三淵嘉子さんは11代目)。
2007年7月弁護士登録。2007~2016年獨協大学法科大学院客員教授/非常勤講師(刑事訴訟法)。