裁判傍聴体験記:裁判傍聴に行ってみました

特集/裁判傍聴に行こう!| 2019.10.01
特集:裁判傍聴に行こう!
Web日本評論編集部で、実際に裁判傍聴に行ってきました。そのときの見たまま、感じたままをレポートします。

裁判傍聴前日の準備

ある日、ろだんと兎先輩は、東京地方裁判所へ裁判傍聴に行く計画を立てています。

ろだん:東京地方裁判所に傍聴に行くにあたって、傍聴のしかたを調べておこう。


ろだん:明日は裁判員裁判傍聴の抽選があるみたいですね。おそらくこの裁判は今とても注目されている裁判だと思います。

兎先輩:せっかくだから抽選をしてみますか。

ろだん:そうですね。では、9:20に東京地裁のロビーで待ち合わせしましょう。

いざ東京地裁へ

東京地裁には、正門から入ると、3つのドアがあります。右から一般来庁者用・関係者用・出口となっています。一般来庁者は、入口を入ってすぐの場所で、空港の荷物検査のようなセキュリティーチェックを受けます。

セキュリティーチェックを受けた後は、正面にある機械(南門側にもあります)でその日に行われる裁判を調べることができます。開廷時間やどの段階の裁判を傍聴したいかによって絞り込みをかけて検索することもできます。気になる事件があったら、時間と法廷番号をメモします。裁判所庁舎内では撮影ができないため、手書きです。機械はタッチパネルの端末で、車椅子の方用に低い机のものも用意されていました。

兎先輩:抽選で外れたときのために、いくつか気になる裁判をピックアップしよう。えーと今日は、民事事件が428件、刑事事件が72件行われるみたい…。

ろだん:民事裁判と刑事裁判を両方傍聴してみたいですね。あとは、ニュースになった事件の裁判があればそれにしましょう。

兎先輩:時間のかぶりもないように。

傍聴が抽選になっていない場合は、このまま開廷時間に合わせて法廷に行けば傍聴ができます。

傍聴券の抽選をする場合は、抽選時間までに所定の場所に行き、抽選番号を受け取って並びます。抽選場所は何か所かあるので、わからなければ受付の人に確認しましょう。東京地裁の場合、抽選場所が地裁の敷地内ではなく、日比谷公園のこともあるそうです。また、コンピューターによる抽選のため、並んだ順番やグループの人数などは関係ないようです。

ろだん:結構倍率高そうだな……。

兎先輩:ざっと数えたところでも…200人以上いますね。

9:30になると職員の方の「今から抽選を始めます」との声がかかり、一瞬で抽選終了。番号が貼り出されます。

ろだん:ふたりとも番号ありますよ!

兎先輩:強運すぎます!

ろだん:今年の運をすべて使った気がします……。

ここで外れた人は抽選番号の紙を返却します。なお、抽選番号のかかれた紙は写真に撮ったり、持ち帰ったりすることはできません。当選者は番号をもったまま法廷へ向かいます。私は再びセキュリティーチェックを受け、当該裁判が行われる法廷へ向かいました。

裁判傍聴前の手続

抽選となった裁判が行われる法廷へ向かうと、手前の廊下から柵が置かれ、職員が何人も配置されています。入り口で当選番号のかかれた紙を確認し、傍聴券と引き替えてもらいます。

職 員:傍聴券をお持ちの方はこちらです。こちらでカバンを預けてください。

通常の裁判は、カバンをもったまま法廷に入ることができますが、抽選となった裁判で法廷に持って入れるのは、財布とノート、筆記用具、タオルなどだけです。とりわけ携帯電話・パソコン・カメラ・USBメモリ・録音機器・音楽プレイヤーなどの電子機器については厳しくチェックされました。

職 員:カバンを預けた方はこちらで法廷へ持ち込むものと身体に金属探知機を当てて検査します。財布・筆箱などは中もあけて見せてください。

すべてのチェックが終わったら、傍聴人席入口の前に整列します。脇にある控え室で待つこともできましたが、よい席に座りたいので並びました。クロッキー帳を持っている人もいます。法廷画家の方でしょうか。

廊下には事件番号・当事者(裁判を受ける人)の名前・裁判長の名前・裁判所書記官の名前が掲示してあります。検察官・弁護人が先に入廷していきます。

職 員:傍聴の注意点について説明します。この裁判は、途中で法廷の外(柵の外)に出ると、戻ることはできません。休廷中、トイレに行くことと水分をとることはできますが、携帯電話などを使用することはできません。なお、開廷前に2分間のテレビカメラ撮影があります。写りたくない場合は、この間入廷しないで廊下で待つこともできます。

準備ができたら傍聴人が法廷に入ります。

裁判が始まります

傍聴席は真ん中の14席が記者席、両端の24席が一般傍聴席でした。一般傍聴席なら番号に決まりはなく、どこでも座ることができました。

午前中は被告人・弁護人側(裁判長に向かって右側)の一番前に着席。

裁判長・陪席裁判官(2名)・裁判所書記官・検察官・弁護士・傍聴人の着席が終わると、報道のテレビ撮影が行われました。その後、被告人が手錠と腰縄をつけられた状態で、2人の刑務官に付き添われて入廷し、裁判長の指示で手錠と腰縄を外され座ります。最後に裁判員が入廷し、全員で起立・礼をしました。

ろだん:裁判員は男女が半分ずつくらい。被告人は若い人だけど、裁判員の中に被告人と同年代くらいの人はいないな。

この日は、公判2日目で、「証拠調べ手続」の中の、「犯罪事実に関する立証」が行われました。まず、検察官が証拠書類をモニターに映しながら、淡々と読み上げ、説明をしていきます。2つ目の証拠からは、傍聴人が見られる大写しのモニターには何も映されませんでした。ところどころ裁判長から「この証拠はなぜ映さないのですか」「きちんと読み上げてください、なぜ読み上げられないのですか」などといった質問が飛んでいました。

証人尋問

証人は傍聴席から証言台に向かい、置いてあった紙を読み上げ「宣誓」します。この日は犯罪事実の立証を行うので、検察側が呼んだ証人です。検察官がまず主尋問を、弁護人が反対尋問を行いました。さらに裁判所からの質問ということで、裁判長は裁判員に質問をさせていました(その前に一度休廷があり、そこで打ち合わせをしていたようです)。裁判長は、自身でも質問は投げかけましたが、基本的には発言内容の整理や確認に徹し、裁判員の質問の補足をしている、という感じでした。

休廷

午前中に1回、午後に1回、20分ほどの休憩時間がありました。この時間、傍聴人は、廊下の柵の外に出たりすることはできません。できるのは、柵の内側にあるトイレに行くことと、水分をとること(札を渡して職員に荷物を持ってきてもらい、その場でペットボトルを取り出して飲み、それをまた荷物にしまい、職員に預けて札をもらう!)だけです。

また、12:30から13:30まではお昼休憩でした。この裁判を午後も引き続き傍聴したい場合は、法廷から出るときに再度傍聴券を受け取るように案内されました。この時間は荷物を引き取ることができ、廊下の柵の外にも出ることができます。昼食は裁判所の地下1階にある食堂でとることができます。コンビニや郵便局もあります。

食堂で、ろだんは「中華セット」を、兎先輩は「ヘルシーセット」を食べながら、周りを気にしつつ小さな声で感想を言い合いました。意外と見ているポイントが違ったりして、なるほどと思います。

兎先輩:そういえば、13:05から時間のかからなそうな民事裁判がありましたよ。せっかくだから、傍聴してみましょう!

ろだん:そうですね。10分前に先ほどの法廷に戻れるようにしましょう。

別の民事裁判を傍聴

債務履行請求事件についての裁判で、小さな法廷で行われました。当事者も傍聴人も同じドアから入廷します。傍聴人はほとんどいませんでした。原告被告がそれぞれ席に着くと(といっても当事者は来ておらず、双方代理人弁護士のみでしたが)、裁判官1人と裁判所書記官が入廷し、裁判が始まりました。原告側、被告側がそれぞれ主張を述べたあと、次の日程を決め、ものの10分でこの日の裁判は終了しました。

ろだん:はやかったですね。まるで打ち合わせのようだと思いました。

兎先輩:傍聴席から法廷内に置かれた用紙に何か書いている人がいたけど、あれは何だったのでしょうね。

午前に引き続き証人尋問

開廷10分前、裁判員裁判の法廷に戻りました。手続は午前中と同様です。裁判所の職員からの説明も同様でした。

ろだんと兎先輩は、裁判長に向かって左側の3列目(検察側・一番後ろの列)に着席しました。というのも、右側には法廷の出入り口があり、午前中、約10分おきに記者が交代のために出入りするのが目に入って煩わしかったからです。また、3列目にしたのも、1列目だと警備の人との距離がかなり近く、メモをとったり法廷に目を向けたりするとき気になったからです。

午後は「証拠調べ手続」の続きで、新たな証人が入廷しました。一度休廷をはさんで、主尋問と反対尋問が行われました。ここでは、何度か異議も出され、論点の対立が鮮明でした。裁判員の方々は、メモを取りながら、尋問を熱心に聴いていました。最後は裁判所からの質問として、午前中と同様、主に裁判員の方々が質問をしました。

裁判長が次の日の予定を述べ、この日の裁判は17:00ちょうどに終了しました。

実際に傍聴してみて感じたこと

ろだん:まず、抽選制の裁判では途中で抜けると戻ることができないというのは、行ってみるまで知りませんでした。個人的に、行く前日から当日の朝まで意識したのは「ニュースを観ない」ことでした。傍聴したことによる素直な自分の感想をもちたい、偏見を持たずに傍聴したいと思ったからです。

兎先輩:著名事件ということでテレビ撮影が入りましたけど、傍聴席の中央にカメラがあり、「壇上に裁判長が真正面を向いて座り、手前向かって左手に検察官3名、右手に弁護人2名、中央に書記官が正面を向いて座っている。」というだけの絵を、2分間、何の物音もなく、誰も微動だにせず、ただただ撮影しているだけ(テレビカメラなのでシャッター音もない)。なんだか滑稽でした。

ろだん:最初に被告人が入廷してきたとき、被告人にいちばん近い席だったため、ピリッとした気持ちになったのですが、裁判が進んでいくなかで被告人の行動を見ていると、気持ちが変わりました。「こわいひと」を見ているという気持ちはなくなりました。今回はとくに被告人にも「同情できる」余地があって、法廷全体が被告人にやさしい雰囲気という感じを受けました。

兎先輩:今回、入退廷時は必ず手錠・腰縄を付けられていた被告人。すでに「罪人」を思わせる手錠・腰縄姿をさらされるのは、有罪の判決を受けるまでは無罪と推定される原則に反するということで、今年、日産の前会長カルロス・ゴーン氏の姿により海外メディアで批判的に取り上げられたことを思い出しました。
裁判長は、必ず裁判員入廷前に解錠を命じていましたが、傍聴席からは常にその姿は見えていました。また、思いのほか解錠時の手錠の金属音(鍵束の音かもしれない)が大きくて驚きました。鍵がジャラジャラ付いている鍵束は、どれが本物か分からないようにするためなのでしょうか。

ろだん:途中で傍聴席のモニターが消えたので、「モニター、何も映っていないんだけど!?」「故障かな?」と思いました。しばらくたってから(次の証拠になってから)、傍聴人に証拠を見せないようにしているのかと気づきました。とくに「これから傍聴席のモニターを消します。傍聴席には証拠書類は映りません」といった宣言はないのですね。

兎先輩:この証拠で検察官はこういう事実を立証しようとしているのだ、と集中して証拠を見たり供述を聞いたりしているのに、モニターをシャットアウトされると、説明についていけなくなります(今回は3/4くらいの証拠文書が見えなかったという印象です)。
裁判長が「プライバシーに配慮したからだとは思いますが…この証拠を映さないのなら、必要な部分は読んでください」などと検察官に促した場面がありましたが、傍聴席には映さない証拠画像があるのなら、せめて理由をその場で検察官に説明してもらいたいと思いました。

ろだん:気になったのは傍聴席にいる記者の行動です。裁判長が口をはさむ場面とか、ニュースでも話題になったような証拠・言動について扱っているときに、記者の方が交代のために席を立ったり法廷を出入りしたりするのはかなり煩わしかったです。傍聴席は静かなので、記者の歩く音やドアの音がとても目立って聞こえます。仕方がないのでしょうけれど、もう少し集中させてほしかったですね。

ろだん:裁判員裁判の傍聴は初めてでしたけれど、以前傍聴した刑事事件とは全然違ってわかりやすかったです。裁判長が、検察官や弁護士に、わかりにくかったことを聞き返し、わかりやすく説明し直させているところもよかったです。裁判員から質問させるというのも、裁判員がきちんと裁判に参加するということが徹底されているようでよかったです。

兎先輩:目の前で、検察官と弁護人がドラマティックにやりあうのを見ているとつい忘れてしまいそうなのですが、実際の裁判は、犯罪事実の立証を検察官が行う責任を負うところから始まります。検察官の立証方法に、弁護人が疑問をぶつけながら、被告人の利益のために弁護する流れになっています。
検察官が有罪の証拠を出し、弁護人が無罪の証拠を出し、それを見比べて裁判官と裁判員が判断する、ということではないんですよね。
また、情報に不均衡がある、ということもいつも頭に置いておかなくてはいけないな、と思いました。映画監督の周防正行氏が『それでもボクはやってない』を撮る際、驚いたことのひとつとしてこれを挙げていました。つまり、制度上、「すべての証拠は検察官が持っていて、弁護人は証拠の全体像を知らない」ということです。当然、検察官は、検察側に有利な証拠だけしか出さない、ということになります。

ろだん:民事事件の傍聴はあっという間に終わってしまったので何とも言えないですが、打ち合わせのようだなと感じました。「他人がいない」内輪の会話という印象でした。何をやっているのかわからないと思う人もいると思いました。もう少しいろいろ傍聴してみたいですね。

兎先輩:新聞やニュース等で事件や裁判の報道に触れるけれど、ふだんあまり意識しなかったことを考えさせられました。
傍聴を終わった後も、この日登場した一人ひとりのことが気になりました。もちろん明日以降の裁判や、判決についてもそうですが、小さな子どものいる被告人のこと、証言をした人たちが今回の事件とのかかわりを今後どう考えていくんだろう、あの質問をした裁判員はどう思ったのだろう…などなど。ちょっと変な言い方ですが、裁判は、生身の人間のやっていることなんだ、というのが、とてもよくわかりました。

ろだん:今朝あまりニュースを観ないようにしていたぶん、裁判所から帰る電車の中では、この裁判に対する報道が気になって、スマホでいろんな記事を読みました。さらに家に帰ってから、今日の裁判はどう報道されるのかな、と思って夕方のニュース番組を観ました。そこで報道されていたのは当然ですがほんの一部、しかも複数の局で同じ部分で、そこだけ見ると全然違う印象を持つだろうな、と感じました。

(編集部)


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