(第18回)重要な鑑定結果を秘匿し、決め手にならない情況証拠だけで、無実の男性を犯人と断定して起訴―東電女性社員殺害事件

捜査官! その行為は違法です。(木谷明)| 2020.02.12
なぜ誤った裁判はなくならないのか――。
警察官、検察官の証拠隠しや捏造、嘘によって、そしてそれを見抜かなかった裁判所によって、無実の人が処罰されてしまった数々の冤罪事件が存在します。
現役時代、30件以上の無罪判決を確定させた元刑事裁判官・木谷明氏が、実際に起こった事件から、刑事裁判の闇を炙り出します。

(毎月中旬更新予定)

東電女性社員殺害事件

殺害された女性の身体や室内にいくつもの有力な痕跡が残されていたのに、検察官は、重要な鑑定結果を秘匿し他の物証を慎重に検討しないまま、決め手にならない情況証拠だけに基づいて、不法残留外国人を犯人と断定して起訴した。第一審の無罪判決を逆転した控訴審の誤りは、再審段階に至ってされたDNA鑑定により決定的に明らかにされた。

  • 東京地判平成12年4月14日判タ1029号120頁
  • 東京高判平成12年12月22日判時1737号3頁
  • 東京高判平成24年11月7日判タ1400号372頁

1 どういう事件だったのか

東京都渋谷区円山町のアパート(K荘)で女性の変死体が発見された。被害女性(A子さん)が、昼間は超優良企業(東京電力)で総合職として働くキャリアウーマンでありながら夜はラブホテル街で客を取って売春していたという特殊性もあって、事件は大きく報道された。K荘室内のトイレには精液の入ったコンドームが遺留されており、その精液のDNAが付近に住む不法残留外国人ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏のそれと一致したことなどから、検察官は、ゴビンダ氏を犯人と断定して起訴した。

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木谷 明(きたに・あきら 弁護士)
1937年生まれ。1963年に判事補任官。最高裁判所調査官、浦和地裁部総括判事などを経て、2000年5月に東京高裁部総括判事を最後に退官。2012年より弁護士。
著書に、『刑事裁判の心―事実認定適正化の方策』(新版、法律文化社、2004年)、『事実認定の適正化―続・刑事裁判の心』(法律文化社、2005年)、『刑事裁判のいのち』(法律文化社、2013年)、『「無罪」を見抜く―裁判官・木谷明の生き方』(岩波書店、2013年)など。
週刊モーニングで連載中の「イチケイのカラス」(画/浅見理都 取材協力・法律監修 櫻井光政(桜丘法律事務所)、片田真志(古川・片田総合法律事務所))の裁判長は木谷氏をモデルとしている。