(第18回)許可抗告制度のもとで生まれた最初の解釈判例・事例判例(遠藤賢治)

私の心に残る裁判例| 2019.12.16
より速く、より深く、より広く…生きた法である“判例”を届ける法律情報誌「判例時報」。過去に掲載された裁判例の中から、各分野の法律専門家が綴る“心に残る判決”についてのエッセイを連載。
判例時報社提供】

(毎月1回掲載予定)

許可抗告制度のもとで生まれた第一号判例

1 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することの可否
2 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権の一部に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるとされた事例

最高裁判所平成10年12月18日第三小法廷決定
【判例時報1663号107頁】

この判例の誕生はとても新鮮である。許可抗告制度は、民事事件の審理において決定で判断される事項に重要なものが増える一方、その法律解釈について高等裁判所の判断が分かれる状況が顕著になったため、最高裁判所において判断の統一を図る目的をもって、現行民事訴訟法で導入された新しい不服申立ての仕組みである。その制度のもとで、平成10年12月に第一号となるこの判例が生まれた。

判示事項1は、古くから執行の分野において裁判例・学説の対立があり、解釈の統一が望まれていた問題であったが、これまでは最高裁判所での最終解決をみることができなかった。これが許可抗告事件として審理判断されたことは、制度の船出にふさわしいものであったといえよう。法律解釈の統一を目的とする判例は、「解釈判例」と呼ばれ、裁判実務上、法源の一つとして大きな機能を果たしている。最高裁判所発足以来これまでに数千もの重要な解釈判例が出されてきた歴史があるが、解釈の確定した法についてその適用の指針となる判例も「事例判例」として公式判例集に数多く登載されてきた。実務の参考になり、法の適用の統一に役立つからである。判示事項2もその一例である。

許可抗告制度のもとで、この20年間に毎年平均約50件の許可抗告事件が受理され、平均すると毎年7件前後が民集あるいは裁判集(民事)に登載されている。基本事件は、民事訴訟事件だけでなく、執行・保全・倒産・家事・商事非訟事件など幅広い。民事訴訟事件においては文書提出命令に関するものが目立つが、報道関係者の取材源の秘密と証言拒否権に関する最高裁判所平成18年10月3日決定(判例時報1954号34頁)、性同一性障害者の妻が婚姻中に懐胎した子の嫡出推定に関する最高裁判所平成25年12月10日決定(判例時報2210号27頁)など社会的関心の高い問題への積極的な取組みが感じられる。全事件の詳しい内容は、判例時報誌の「許可抗告事件の実情」(最高裁判所民事上席調査官等執筆、年1回)に掲載されており、民集および裁判集(民事)に登載されなかった事案も具体的に紹介されているので、実務家にとって極めて有益である。このたび、20年間分が1冊にまとめられ、書籍化されることになったことで、大変に利用しやすくなる。

判示事項2は、解釈判例である判示事項1に基づく「特段の事情」の有無をあてはめるうえで指針になることから、事例判例として掲示されている。許可抗告は、法令解釈に関する重要な事項を含むものであることを要件としているので、法の適用における個別具体的な当てはめの争いは、本来は下級審の事例集積を待つべきであろう。しかし、判断の統一の必要がある重要な事項は、法の解釈だけでなく、法の適用の認定評価においても差があるわけではない。判示事項2は、それ自体が事例判例としての機能を有していることに意味がある。ちなみに、最高裁判所平成13年12月7日決定(判例時報1771号86頁)は、民訴法220条の自己利用文書に当たるとはいえない特段の事情(この要件は最高裁判所平成11年11月12日決定が定立した法律解釈に基づいている)があるとされた事例判例であり、その後も法適用問題で独立した事例判例が新たに生れている。高等裁判所の許可に基づく許可抗告制度が、解釈判例のみならず事例判例を創出する新たな場所として活発に運用されることを期待してやまない。


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遠藤賢治(えんどう・けんじ 早稲田大学名誉教授)
1943年生まれ。早稲田大学法学部卒。裁判官に任官。司法研修所教官、東京地裁部総括判事、京都家裁所長などを経て、早稲田大学教授。大学院法務研究科で民事訴訟法科目などを担当。退職後、弁護士法人早稲田リーガルコモンズ法律事務所の設立に関与。著書に、『民事訴訟にみる手続保障』(成文堂、2004年)、『事例演習民事訴訟法 第3版』(有斐閣、2013年)など。