対談:統計が果たすべき役割と改善への道筋(経済セミナー2019年6・7月号)

特集から(経済セミナー)| 2019.06.03
経済セミナー』の特集に収録されている対談・鼎談の一部をご紹介します.

(奇数月下旬更新予定)

2018年末に毎月勤労統計調査で問題が明らかになって以降、統計に注目が集まっている。今回はそれを機に、政府統計を作る側に深く関わる北村氏と、経済学者として統計を使う側の重岡氏に、改めて統計の意義や役割についてご議論いただいた。

1 はじめに—統計との関わり

—政府統計でさまざまな問題が指摘されています。まずは先生方が統計とどのように関わっておられるか、ご紹介ください。

北村 私は、2015年より総務省の統計委員会1)の委員長代理を務めています。委員は2011年から務めて8年目で、もう長く政府統計を作る側に関与しています。毎月勤労統計調査2)の審査にも約4年前から関わっています。しかし皮肉なことですが、これまで統計に関わってきて、今ほど経済学者や統計学者が連日国会に呼ばれ、統計について議論されるようなことはありませんでした。青天の霹靂というか、前代未聞の状態です。できればこれをポジティブな方向で捉え、統計をよくする機会にできればと思っています。

北村行伸さん(きたむら・ゆきのぶ)
一橋大学経済研究所教授。1956年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。オックスフォード大学大学院経済学博士号取得(D. Phil in Economics)。経済協力開発機構(OECD)パリ事務局事務官、日本銀行金融研究所研究員、慶應義塾大学商学部客員助教授、一橋大学経済研究所助教授等を経て、2002年より現職。2011年より総務省統計委員会委員、2015年より委員長代理を務める。

私の研究者としてのキャリアは経済学の博士号を取得してスタートしました。もともと大学院では社会的選択理論など、理論の研究からスタートしましたが、次第に実証に関心を持つようになり、主に家計の貯蓄や遺産動機、財政に関する研究を行ってきました。現在は、政府統計等の長期経済統計に関する資料を管理する部門である一橋大学経済研究所付属社会科学統計情報研究センターに所属しています。

政府統計は幅広い用途で定期的に用いられており、民間調査と比べて予算も規模も非常に大規模である場合がほとんどです。データは公共財でもあり、それを有効に活用できないのはもったいないので、研究者らの二次利用を促進することが、統計委員会における私の仕事のつです。

重岡 僕は北村先生とはまったく違う立場で、あくまでも統計データのユーザーです。今回の問題も報道されている以上のことは基本的には知りません。良くも悪くも統計に注目が集まるのを見ながら、同時に自分が過去に使ったデータは大丈夫なのだろうかという不安とともに興味もあるという心境です。

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脚注   [ + ]

1. 統計委員会は、統計法に基づき総務省に設置された公的統計の効率的な整備と有用性の確保を目的とする審議機関。
2. 毎月勤労統計調査について詳細は、本誌pp.41-45(労働統計と経済学)を参照。