対談:消費税と社会保障のゆくえ(経済セミナー2019年8・9月号)

特集から(経済セミナー)| 2019.07.31
経済セミナー』の特集に収録されている対談・鼎談の一部をご紹介します.

(奇数月下旬更新予定)

2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げ。景気への悪影響なども懸念されるが、そもそもなぜこれが必要なのか、日本の経済・財政・社会保障が抱える真の問題は何か、これからどうすべきなのか…。研究だけでなく政策現場でも活躍する佐藤氏と鈴木氏に、それぞれの視点からご議論いただいた。

1 なぜ消費税引き上げが必要なのか

佐藤 一橋大学の佐藤です。私はこれまで、一貫して税制や財政の問題を経済学のアプローチで研究してきました。今回の対談のテーマは、2019年10月に予定されている消費税増税です。消費税をめぐっては、景気への悪影響の懸念など、問題として認識されている面もありますが、最初に強調したいのは、消費税増税は、われわれが抱えている問題の結果なんだということです。その問題とは、高齢化に伴って増加している社会保障費用と、国・地方財政の悪化です。これらへの対処として、消費税増税が決定されたのです。

佐藤 主光 さん(さとう・もとひろ)
一橋大学大学院経済学研究科、国際・公共政策大学院教授。1969年生まれ。1998年、クイーンズ大学経済学部博士課程修了(Ph.D. 取得)。一橋大学大学院経済学研究科講師、助教授、准教授を経て、2009年より現職。

そもそも消費税増税の根拠は、2012年から進められてきた「社会保障と税の一体改革」です1)。ここで、社会保障の充実・安定化と財政健全化のための安定財源確保を目的に、消費税を当時の5%から10%に引き上げる合意がなされました。ところが、今ではそれも忘れられてしまい、消費税だけが議論に上ってきます。しかし、もとは社会保障と消費税の問題は一体なのです。問題の原因である社会保障まで視野を広げないと、消費税増税をめぐって意味のある議論はできないでしょう。

鈴木 学習院大学の鈴木です。社会保障が専門です。この分野は、年金、医療、福祉など、個別に細分化されているのが特徴ですが、私は、広く社会保障全般を専門としています。もとは日本銀行のエコノミストで、マクロ経済や金融から研究の世界に入ったので、経済・財政をマクロ的に見つつ、ミクロの社会保障を分析するといったスタンスです。また、大阪市や東京都の特別顧問として、実際の改革の現場でも仕事をしてきました2)

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脚注   [ + ]

1. 社会保障と税の一体改革については、内閣官房のホームページに情報がまとめられている。
2. 鈴木亘(2016)『経済学者 日本の最貧困地域に挑む──あいりん改革 3年8カ月の全記録』東洋経済新報社、鈴木亘(2018)『経済学者、待機児童ゼロに挑む』新潮社、を参照。