(第5回)AIの現在の「実力」(濱野敏彦)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2019.01.24
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所の7名の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

角田篤泰「ロボット・AIと人間性」

法律時報90巻12号(2018年11月号)30頁~37頁より

いわゆるAI(人工知能)が、深層学習を中心として、成果を挙げ始めている。

私は、深層学習の基礎技術であるニューラルネットワークの研究室に大学学部4年時、及び、大学院の2年間の合計3年間在籍していた。

それから十数年が経ち、深層学習(ニューラルネットワーク)が成果を挙げて、社会に大きなインパクトを与え続けていることは、個人的には非常に感慨深い。

AIの進展を受けて、法整備も進んでいる。

法律時報2018年11月号
定価:税込1,890円(本体価格1,750円)

不正競争防止法においては、AIの進展により価値が高まってきている気象データ、工作機械の稼働データ、自動走行自動車用データ、消費動向データ等のデータの流通の促進という観点から、平成30年不正競争防止法の改正で「限定提供データ」が創設され、一定要件の下でこれらのデータを「限定提供データ」として保護することとされた。本改正は2019年7月1日から施行される。

2019年1月23日には、限定提供データの要件の考え方、限定提供データに対する不正競争行為の具体例等が記載された「限定提供データに関する指針」が公表されている。

また、著作権法においても、もともと、平成30年改正前著作権法47条の7の権利制限規定により、営利・非営利を問わず、また、主体を研究機関等に限定せずに一定のAIによる利用が可能であったが、平成30年の著作権法改正により、AIによる利用が可能な範囲がさらに広げられた(著作権法30条の4第2号等)。本改正は、2019年1月1日から施行されている。

このようにAIが進展し、法整備も進む中で、AIについては様々な媒体で、多く取り上げられている。

実務家にとっては、現在のAIがどのようなものであり、どのようなことができるのかという、いわば、AIの現在の「実力」を理解することが重要となるであろう。

しかし、このAIの現在の「実力」については、あまりしっかりと理解できていないと感じている方も多いのではなかろうか。

AIの現在の「実力」の理解が難しいことの一因として、AI自体が今後の発展の可能性を秘めているために、今できること、近い将来にできる可能性が高いこと、遠い将来にできるかもしれないこと等が、あまり明確に区別されずに記載されてしまっている傾向にあることが挙げられると思われる。

これに対して、本稿は、AIが「『人間』概念を揺るがすような可能性」について記載しており、その中で、①現在のAIができないこと、②現在のAIがそれをできない理由、③AIがそれをできるようになるとしたらいつ頃であると予想されるかについて説明しているため、逆に、現在のAIが何をすることができるのかを理解する上で有益な論考であるといえる。

本稿は、「強いAI」と「弱いAI」を定義した上で、論理を展開させている。

この「強いAI」と「弱いAI」は、AIの分類として色々な媒体で説明されているが、AIの研究者の考え方に関するかなり深い議論である上に、各研究者によってこれらの言葉の定義が異なるため、単に「強いAI」と「弱いAI」としてよく使われる意味を説明しても、AIの現在の「実力」の理解に資するとは言い難い。

これに対して、本稿は、「現在では定義が多様なので、本稿限定として」とした上で、「強いAI」と「弱いAI」を定義し、現在のAIは何ができないか等について説明している。

具体的には、「強いAI」は、自律性を持ち、人と同等かそれ以上の知能を持つAI、「弱いAI」は、人の道具として、利用されるような他律的なAIと定義している。

さらに、本稿では、「強いAI」を、人類に親和的な「ホワイトAI」と、制御が不能であり、逆に人類の方が制御されてしまうような「ブラックAI」に分類して、説明している。

まず、「強いAI」のうち「ホワイトAI」の実現には「言語理解」という大きな壁があること、そして、なぜ、「言語理解」が難しいかについて説明している。その中で、国立情報学研究所が中心となって行った「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトで困難であったのが「言語理解」であったこと等が紹介されている。

そして、このようにAIにとって難しい「言語理解」をできるようにするためには、「身体性」や「社会性」を伴わせる必要もあること等が説明されている。

次に、「強いAI」のうち「ブラックAI」は、「ホワイトAI」のように、人類に親和的にさせる必要がないために、「ホワイトAI」よりも早く出現する可能性があるとしている。

ただし、いくら「ブラックAI」が自律性を持っているとしても、人類のこれまでの知見に全くアクセスしないで、知の体系を備えるということが近い将来に起こることは考えにくいことを説明している。

最後に、現在のAIが属する自律性の無い「弱いAI」について、どのようなことが起こり得るかについて、色々な検討をしている。

例えば、「人間の方がコンピュータやロボットに合わせた考え方や暮らし方に変貌することに対する懸念もある」として、「既に、我々の行動は、……Siriにとって分かりやすい言い方になったり」していると指摘している。

このように、本稿は、自律性のある「強いAI」(「ホワイトAI」及び「ブラックAI」)と「弱いAI」を用いて、現在のAIができないこと等について説明しており、実務家にとって重要なAIの現在の「実力」を理解する上で示唆に富む論考である。

本論考を読むには
雑誌購入ページへ
TKCローライブラリーへ(PDFを提供しています。次号刊行後掲載)

この連載をすべて見る


濱野敏彦(はまの・としひこ)
2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『秘密保持契約の実務』(共編著、中央経済社、2016年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。