再審法改正の過程から見えるもの(後藤昭)

法律時評(法律時報)| 2026.08.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」98巻9号(2026年9月号)に掲載されているものです。◆

本年7月に一応決着した再審法改正の過程は、この国で人権保障を強化する方向での刑事手続立法をすることの困難さを改めて示した。

1 何が課題だったか

冤罪をなくすように努力することは正しい。しかし、刑事裁判を続ける限り、ある確率で誤判が発生することは原理的に防げないというのが、冷厳な事実である。冤罪に陥れられる者は、社会が刑法という制度を維持するための犠牲者である。このような犠牲者が罪を晴らすことのできる実効的な救済手段を伴わなければ、刑事法制は道徳的な正統性を持たない。再審制度の役割はそこにある。

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大正刑訴法の職権主義から、現行刑訴法の当事者主義へ訴訟構造が大きく変わったのに、再審に関する規定は、ほぼ変わらず、乏しいままであった。ただ、憲法39条が二重の危険を禁じたのを受けて、被告人だった者にとって不利益な方向での再審はなくなった。

1975年の最高裁白鳥決定は、刑訴法435条6号に拠る再審請求の場面でも「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が適用されることを確認して、有罪の認定に合理的疑いが生じれば再審を開始するべきことを示した。その結果、財田川事件、免田事件を含む4件の死刑事件などで再審無罪という結果が出た。

しかし、再審開始が全体として容易になったわけではない。最近再審制度による救済が実現したいくつかの事例では、有罪判決の確定から再審無罪判決までに長期間を要している。袴田事件では、死刑判決確定後44年を経て再審無罪判決が確定した。福井女子中学生殺害事件では、有罪判決確定から再審無罪判決までに28年間を要した。日野町事件では、有罪判決確定後26年を経て今年ようやく再審開始が確定した。

再審による救済に長期間を要する一つの大きな原因は、再審請求審で、請求人側に検察官保管証拠の開示を請求する権利がないことであった。これらの事件では、積極的な裁判官が検察官に証拠開示を勧告し、それに従って開示された未提出記録の中に、再審開始決定を導く重要な証拠があった。現行法には、このような運用を保障する規定はなく、担当する裁判官次第で、証拠開示の可能性が左右される。再審開始までに長期間を要したもう一つの原因は、いったん再審開始決定が出ても、検察官が即時抗告、特別抗告によって争い続けたことである。検察官抗告のために再審公判の開始が遅れた期間は、袴田事件で9年、福井女子中学生殺害事件で14年、日野町事件では8年間であった。大崎事件と名張毒ぶどう酒事件では、いったんは再審開始決定が出たものの、検察官の抗告により取り消されたため、再審開始に至っていない。

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