基準時後の形成権行使は既判力により遮断されるか?(八田卓也)(連載:熱論 民事訴訟法 第1回)

連載紹介(法学セミナー)| 2026.08.26
隔月刊「法学セミナー」の連載より、お勧めの回をご紹介します。読んで興味を持たれたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
(不定期更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」849号(2026年4・5月号)に掲載されているものです。◆

連載開始にあたって

本号から2年間の予定で、民事訴訟法をテーマとする連載を行う。この連載では、判例と学説の間や、学説内部において鋭い見解の対立がある論点を取り上げ、その対立状況をできる限りヴィヴィッドに活写した上で、当該論点についての筆者なりの見通しを示す、ということを試みる。筆者が初めて民事訴訟法の授業を学部生時代に受講した際、正直ちんぷんかんぷんだった。しかし、この分野の研究者を志して勉強を進めれば進めるほど、分からないながらその奥深さ、面白さに魅了されていった。なんとかその面白さを読者の皆さんと共有したい、この連載の意図はそれに尽きる。そのためこの連載では、個別の論点をそれなりに掘り下げる。したがって、民事訴訟法を一応でも一通り勉強した方を読者として想定している。一応勉強したけど、よく分からなくて苦手。そういう方にこそ、この連載は読んで頂きたい。取り上げる論点の順番は、敢えて体系立てたものとはしない。それはその方が、円環的構造を有するといわれ1)、各論点相互の結びつきが強い民事訴訟法の特徴をよく理解して頂けると思うからでもある。

1 本回のはじめに

定価:税込 1,760円(本体価格 1,600円)

そのような次第で、初回から、手続のいわば出口である判決効に関わる問題、具体的には、基準時前に生じた形成権を基準時後に行使することが既判力により遮断されるか、という問題を取り上げる。この問題については、判例は、形成権の種類に応じた場合分けをし、取消権は遮断されるが2)、相殺権・建物買取請求権は遮断されないとし、取消権を遮断する場合の理論構成としては既判力を用いている3)。そして、学説上の圧倒的多数説は、この判例をその結論・理論構成を含めて支持する。しかし、この判例・通説に対しては、中野貞一郎4)が強い異論を唱えていた。具体的には、取消権は遮断し、相殺権・建物買取請求権は遮断しないという結論自体は支持しつつ、取消権を遮断する場合の論拠を既判力に求めるのは相当でなく、求めるとすれば信義則である、というのである。この中野説は少数説に留まるものの、筆者の目線からは、無視できない重要な指摘を含んでいるように映る。そこで、以下では、判例・通説と、中野説の対立状況をできる限り客観的に描き明かした上で、この問題についての筆者なりの検討を施したい。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。
会員登録(無料)はお済みですか? → 会員について

脚注   [ + ]

1. 三ケ月章『民事訴訟法研究第10巻』(有斐閣、1989年)8-17頁[初出1984年]、高橋宏志『民事訴訟法概論』(有斐閣、2016年)4頁、404頁、山本弘ほか『民事訴訟法〔第4版〕』(有斐閣、2023年)ⅱ頁。
2. 判例(最判昭和57・3・30民集36巻3号501頁)は、白地手形補充権の行使も既判力により遮断されるとするが、これについて学説上は賛否が分かれているので(学説の状況につき、高橋宏志『重点講義民事訴訟法(上)〔第2版補訂版〕』〔有斐閣、2013年〕620-622頁を参照)、本攷のメインの検討対象からは除外し、副次的に検討するにとどめることにする。
3. 白地手形補充権も同様である。最判昭和57・3・30前掲*2参照。
4. 中野貞一郎・判批(最判昭和55・10・23民集34巻5号747頁)・民商84巻6号(1981年)902頁以下。

法学セミナー の記事