『憲法講義[第4版]』(編:本秀紀)
第4版へのはしがき
殺すな
HAIIRO DE ROSSI
本書第3版のはしがきを書いていた最中、ロシアがウクライナへの侵略を開始した。圧倒的な軍事力を背景に、ロシア側が一気に片をつけるのではないかとの見方もあったが、約4年を経た現在も、双方で計40万人以上の戦死者を出しながら、戦争終結への道すじは見通せない。2023年10月には、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への軍事侵攻が始まり、7万5千人を超える罪なき人々が殺害された。昨年10月に一応の「停戦」に入ったものの、「停戦合意違反」を主張するイスラエルの攻撃により、その後も600人以上が命を落としている。同年1月に政権復帰したアメリカのトランプ大統領は、今年1月、ベネズエラを軍事攻撃して、同国のマドゥロ大統領を拘束、自国へと連れ去った。国際社会が戦後80年にわたって築き上げてきた「法の支配」が、むき出しの「力の支配」に取って代わられようとしている。
国内に目を転じても、選挙の機会を利用して、人の尊厳を踏みにじるヘイト言説やフェイク情報をまき散らす政治家が拍手喝采を浴び、為政者が「私に委ねて」解散で大量の議席をかすめ取るなど、立憲主義・民主主義を成り立たせるための基盤が掘り崩されつつある。
今回の改訂では、これらの状況もふまえながら、新たな立法や判例の動向を補うとともに、旧版の叙述を再吟味したうえで必要なヴァージョン・アップを図った。
初版へのはしがきにあるように、本書は日本評論社の柴田英輔さんとの個人的なやり取りから生まれた。当時バリバリの編集部員だった柴田さんは、一昨年、同社の代表取締役に就任されたが、社長としての重責を果たしながら、今回の改訂についても懇切丁寧な編集作業を進めていただいた。心より感謝したい。
2026年3月米以両国の蛮行に満腔の怒りを込めて
本秀紀
第3版へのはしがき
War is over, if you want it
John Lennon & Yoko Ono
本書第2版の刊行後3年半の間に、憲法をとりまく状況は大きく変化したが、なかでも特筆すべきは、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行であろう。「コロナ対応と憲法」というテーマは、ともすると—憲法に緊急事態条項を導入せんとする改憲論がその典型であるように—現在の憲法ではたしてこのコロナ危機に対応できるのか、という方向で論じられる傾向にあるが、立憲主義の観点から問われるべきはむしろ、あれこれのコロナ対策の手法や内容が憲法から見て許されるものであるかどうか、という—いわば逆方向の—議論である。
くわえて、「危機は平時の問題状況をクローズアップする」との観点からすれば、国民に健康で文化的な生活を営む権利を保障するとともに、国に対して公衆衛生の向上・増進を義務づけた憲法25条にもかかわらず、その基礎的インフラの重要部分を構成するはずの保健所や公的病院を縮小してきた現実政治の反憲法的性格こそが問題とされなければならないし、まさに地域住民の生命・健康・暮らしを支える地方自治の充実(憲法第8章の実効的保障)が要請されなければならない。
今回の改訂では、そうした状況も念頭におきながら、新たな立法や判例の動向を補うとともに、旧版では必ずしも十分でなかった叙述についても、集団的検討を重ねたうえで適宜加筆修正を行った。
2020年春、コロナの感染が拡大しつつあるなかで、本書執筆者の共通の師である森英樹先生が鬼籍に入られた。本書のそこかしこに、その学問的軌跡の影響が息づいている。先生の遺志を今後も引き継いでいくことをお誓いして、多大なる学恩に報いたい。
今回の改訂でも、日本評論社の柴田英輔さんの的確かつ手際のよい編集作業に大いに助けられた。記して感謝申し上げる。
2022年2月ロシアのウクライナ侵略に断固抗議しつつ
本秀紀
第2版へのはしがき
本書初版の刊行後3年半の間に、憲法をとりまく状況は大きく変動した。「安保法制」をはじめ、憲法理念と相容れない諸法が成立しただけでなく、説明責任の放棄、公文書の改竄・隠蔽など、通常の立憲民主主義国家では想定できないような事態があいつぎ、立憲主義や民主主義の基盤が根底から覆されようとしている。
今回の改訂では、そうした状況を念頭におきながら、新たな立法や判例の動向を補うとともに、初版時には十分でなかった叙述についても、適宜加筆修正を加えた。
目を世界に転じると、一国の「最高責任者」がフェイク・ニュースを吹聴し、排外主義的な言説で「自国ファースト」を煽っている。他方で、朝鮮半島の和平への動きなど、少し前までは思いもよらなかった変化の兆しもみられる。今後、世界がどうなっていくのか、事態が流動的で見通せないが、ここでも、私たちが物事を見極める際のよすがとなるのは、誰もが平和のうちに自分らしく人間らしく生きる権利を保障した「憲法のこころ」であろう。
今回も、日本評論社編集部の柴田英輔さんに大変お世話になった。心より厚く御礼申し上げる。
2018年8月
本秀紀
初版へのはしがき
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
宮沢賢治『農民芸術概論綱要』
本書は、大学の法学部で開講される専門科目「憲法」のテキストとして編まれた。分担執筆ではあるが、全体として一貫した内容になるように、何度も編集会議を開き、基本的なコンセプトから細部の表現に至るまで検討を重ねてきた。テキスト執筆を呼びかけた本が形のうえで編者となっているが、実質的には7人の著者による共同執筆といってよい。
本書の特徴は序章で述べたので、詳しくはそちらを参照していただきたいが、憲法解釈の概説を中心にしつつも、歴史的文脈における問題の位置づけや、憲法構造に照らした日本の現実の分析などにも、できるだけ言及することを心がけた。その際、司法過程での憲法運用にとどまらず、民主政過程において憲法がはたすべき役割をも重視した。あまたある憲法テキストのなかで、本書がなにがしかの存在意義をもつとすれば、その点にあろう。
本書出版のきっかけは、日本評論社編集部の柴田英輔さんとの個人的な会話であった。柴田さんの粘り強い叱咤激励がなかったら、本書は日の目を見なかったであろう。記して感謝の意を表したい。
2015年3月
本秀紀
目次
第1部 総論
第1章 憲法というものの考え方
第2章 歴史と比較の中の憲法
第3章 日本の憲法
第4章 国民主権と天皇制度
第1節 国民主権
第2節 象徴天皇制度
第5章 非軍事平和主義
第6章 憲法の変動と保障
第2部 統治の仕組み—各論(1)
第1章 統治の基本構造
第2章 政治部門
第1節 民主政の全体像
第2節 国民代表と政党制
第3節 政治参加の権利と制度
第4節 議院内閣制
第5節 財政
第6節 地方自治
第3章 司法部門
第1節 司法権
第2節 違憲審査制
第3部 権利の保障—各論(2)
第1章 人権総論
第2章 平等
第3章 精神的自由
第1節 思想・良心の自由
第2節 信教の自由
第3節 表現の自由
第4節 学問の自由
第4章 経済的自由
第1節 職業選択の自由
第2節 財産権
第3節 居住・移転の自由
第5章 人身の自由と適正手続の保障
第6章 現代的人権
第1節 社会権
第2節 家族をめぐる法と権利
第3節 新しい人権
書誌情報
- 『憲法講義[第4版]』
- 編:本 秀紀
- 定価:税込 4,180円(本体価格 3,800円)
- 発刊年月:2026.04
- ISBN:978-4-535-52922-9
- 判型:A5判
- ページ数:572ページ
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