不完全競争下における生産関数の識別
海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2025.01.30
Ackerberg, D. A. and De Loecker, J.(2024) “Production Function Identification Under Imperfect Competition,” Working Paper.
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
哥丸連太朗
はじめに
企業の生産関数は経済学の中核を形成する概念の 1 つであり、その識別と推定の方法に関しては産業組織論や計量経済学などの分野を中心に多くの研究が蓄積されてきた。近年では、企業の市場支配力を測定する目的で生産関数の推定が行われるなど、マクロ経済学、国際貿易論、そして労働経済学においても分析手法として重要な地位を占めつつある。有力な生産関数推定法には Olley and Pakes (1996) から続く代理変数法1)と、Blundell and Bond (1998, 2000) が提案した動学パネル法の 2 つが存在する。今回紹介する論文は、両手法 (特に代理変数法) が不完全競争下で抱える識別上の問題点を指摘し、その解決法を提案したものである。以下では、今回紹介する論文 (Ackerberg and De Loecker 2024) を著者らの頭文字をとって ADL と表記する。
脚注
1. | ↑ | proxy variable approach の訳語。しばしば、名称が似た計量経済学の用語 control function approach と混同されるが、両者の思想は異なる。前者が内生性の原因となる観察不能な要素を直接モデル化する一方で、後者は観察不能な要素に関連しない操作変数を用いて内生変数から観察不能な要素を取り出す。 |