(第6回)国際協力と精神保健プロジェクト

紛争・災害と子どものこころのケア――世界の精神保健の現場から(田中英三郎)| 2023.03.03
2022年ロシアによるウクライナ侵攻は日本に住む私たちにも大きな衝撃を与えました。また、新型コロナウイルスのパンデミックや自然災害など、私たちの日常を一変させる出来事がいつやってくるかは予想もつきません。こういった出来事はすべての人々のこころに暗い影を落としますが、特に子どものこころへの影響は計り知れません。この連載では、世界と日本の現場から、子どもたちのこころの健康を保つためにどんなことがされているのか、レポートしていきます。

(毎月上旬更新予定)

国際協力とは

今月は、国際協力と精神保健プロジェクトについて概論的なお話をしたいと思います。多くの読者は、国際協力機構(JICA、ジャイカ)の名前を耳にされたことがあろうかと思います。では、JICAとはいったいどんな組織かご存知でしょうか? JICAは、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関の1つであり、開発途上国・地域の社会・経済発展に国際協力を通じて寄与しています。ここまで“国際協力”というキーワードが繰り返し出てきました。そもそも、国際協力とはいったい何でしょうか? JICAのホームページを覗くと、「国際社会全体の平和と安定、発展のために、開発途上国・地域の人々を支援することが、国際協力です」と述べられています1)

では、なぜ縁もゆかりもないよその国を支援するのでしょう? 2011年の終わりに、東日本大震災の被災地でのボランティア医療活動に一区切りがついた時点で、私は翌2012年から中国四川大地震の復興支援プロジェクトで中国に赴任することを決めました。当時、東日本大震災の被災地は復興の途上であり、なぜ日本ではなく外国のために働くのかと問われることがありました。この素朴な疑問に対する答えを、私は長年考えてきました。

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脚注   [ + ]


田中英三郎(たなか・えいざぶろう)
2001年愛媛大学医学部を卒業、精神科医師。ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)等で社会疫学を研究、公衆衛生学修士、博士(医学)。国立国際医療研究センター、国境なき医師団、都立梅ヶ丘病院、兵庫県こころのケアセンター等を経て、2021年よりJICAヨルダン事務所・ヨルダン保健省精神保健政策アドバイザーを務めている。