(第92回)ブロッキングが認められるために必要な厳格な要件(濱野敏彦)
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。(毎月中旬更新予定)
大島義則「ブロッキングの可否—通信の秘密を中心として」
ジュリスト1619号(2026年2月号)70頁~75頁より
総務省は、2025年4月にオンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(以下「本検討会」という。)を設置し、本検討会においてオンラインカジノ対策の一つであるアクセス抑止の法的・技術的な課題について集中的に議論を行い、同年9月に基本的な考え方等を整理した「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会中間論点整理」(以下「中間論点整理」という。)を公表した【PDF】。アクセス抑止には、「ブロッキング」も含まれており、「ブロッキング」については、中間論点整理(14頁)において「ブロッキングとは、ISPが、利用者の同意なく、特定のIPアドレスへのアクセスを強制的に遮断するものをいう。具体的には、名前解決の仕組を利用したDNSブロッキングの方法が想定される。」とされている。
そして、中間論点整理では、ブロッキングに関する法的検討について、「ブロッキングが、電気通信事業法が定める『通信の秘密』の保護に外形的に抵触し、手法によっては『知る自由・表現の自由』に制約を与えうるものであり、とりわけ電気通信事業法上の通信の秘密の侵害の構成要件に該当する行為であることから、実施には慎重な検討が求められる。すなわち、ブロッキングが単に有効な対策であるだけでは足りず、他のより権利制限的ではない有効な対策が尽くされたかどうかを検証することが必要である。」と記載されている(同17頁)。
本検討会は、中間論点整理の公表後も、関係者へのヒアリング等によりアクセス抑止に関する法的・技術的課題の検討を進め、2026年4月に「オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会報告書(案)」を公表した【PDF】。
このように、本検討会において、オンラインカジノに関連して、ブロッキングを含むアクセス抑止の在り方について検討が進められている。
本稿は、オンラインカジノのみならず、ブロッキング全般の可否について考察するものである。
本稿は、まず、我が国におけるブロッキングに関する政策動向として、①児童ポルノブロッキング、②海賊版サイトブロッキング、③オンラインカジノブロッキングについて説明する。
次に、立法に基づかずに解釈論によりブロッキングを行う場合について、緊急避難(刑法37条1項)の要件を充足する限りにおいて法解釈により実施することが可能であるとした上で、上記①~③のそれぞれが緊急避難に該当するかについて具体的に検討している。
①児童ポルノブロッキングについては、ブロッキングにより守られる法益が人格的利益を中心とした児童の権利等であり、法益を侵害された場合に児童が受ける被害が重大かつ深刻なものであるため現行の児童ポルノブロッキングは緊急避難として適法であると解釈している。
これに対して、②海賊版サイトブロッキングについては、守られる法益である著作権は事後的な被害回復可能性のある財産権であるため、通常は、侵害される法益である通信の秘密と比較して同等以上とは言い難いと指摘している。また、この点に関して、裁判例(東京高判令和元年10月30日)においても、「児童ポルノ事案のように、被害児童の心に取り返しのつかない大きな傷を与えるという日本国憲法13条の個人の尊厳、幸福追求の権利にかかわる問題と異なり、著作権のように、逸失利益という日本国憲法29条の財産権(財産上の被害)の問題にとどまる本件のような問題は、通信の秘密を制限するには、より慎重な検討が求められる」と判示されている点を指摘している。
そして、③オンラインカジノブロッキングについては、ブロッキングにより得られる利益は「ギャンブル等依存症被害(健康被害等)の防止」に求めざるを得ないとした上で、「ISPが自主的取組としてブロッキングをした場合に緊急避難が成立する場面は限定的であ」ると結論づけている。
実際にブロッキングの適法性・合憲性を検討する際には、ブロッキングの一般論に加えて、ブロッキングにより守られる法益と、侵害される法益とを、具体的に比較・検討することが重要となる。
本稿は、①~③について、具体的に緊急避難に該当するか、すなわち、法解釈により実施することが可能であるかについて検討している点で、実際の事案においてブロッキングの適法性を検討する上で示唆に富むものである。
さらに、本稿では、立法論によるブロッキングの可否についても検討している。すなわち、緊急避難に該当しない場合であっても、立法により法令行為(刑法35条)として違法性が阻却される場合について検討している。
そして、(i)立法目的の重要性が立法事実により基礎づけられること、(ii)少なくとも立法過程において、通信の秘密の重要性に照らし、目的・手段の実質的関連性と、より制限的な他の選び得る手段を検討すべきこと、(iii)オンラインカジノについては、行政機関による恣意的なブロッキングを防止するための制度的担保措置が要求されること等を指摘した上で、「各種ブロッキングは違憲になることが多いであろう」と結論づけている。
(i)~(iii)は、いずれも実際にブロッキングに関する立法において、ブロッキングの適法性・合憲性を検討する上で重要な点である。
このように、本稿は、解釈論によりブロッキングを行う場合の適法性について、①児童ポルノブロッキング、②海賊版サイトブロッキング、③オンラインカジノブロッキングを題材として具体的に考察し、また、立法論によるブロッキングの可否について重要な点を指摘しており、実務上、ブロッキングについて検討する上で示唆に富む論考である。
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濱野敏彦(はまの・としひこ)2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。














