(第5回)難民とこころのケア

紛争・災害と子どものこころのケア――世界の精神保健の現場から(田中英三郎)| 2023.02.03
2022年ロシアによるウクライナ侵攻は日本に住む私たちにも大きな衝撃を与えました。また、新型コロナウイルスのパンデミックや自然災害など、私たちの日常を一変させる出来事がいつやってくるかは予想もつきません。こういった出来事はすべての人々のこころに暗い影を落としますが、特に子どものこころへの影響は計り知れません。この連載では、世界と日本の現場から、子どもたちのこころの健康を保つためにどんなことがされているのか、レポートしていきます。

(毎月上旬更新予定)

日本と難民

日本は第二次世界大戦後、幸運なことに戦争や紛争の当事国となることなくすんでいます。しかし世界では、朝鮮戦争(1950-53年)、ベトナム戦争(1955-75年)、中東戦争(1948-73年)、湾岸戦争(1990-91年)、イラク戦争(2003-2011年)など、悲惨な争いは枚挙に暇がありません。一旦戦争が起こると、戦地から多く住民が逃れて、難民や国内避難民となります。

日本の私たちがこの問題を身近に感じるようになったのは、2022年2月に発生したロシアのウクライナへの軍事侵攻(ロシア・ウクライナ戦争)ではないでしょうか。国連難民高等弁務官事務所によると、この戦争で624万人以上がウクライナ国内で避難を強いられており、1500万人以上が国外へ避難しています1)。これはウクライナの総人口の約半数が、住む場所を奪われたことを意味します。日本も開戦以降、避難民として2220人を受け入れてきました(2022年12月21日、出入国在留管理庁2))。この人数は他の受け入れ国と比較すると多くはありませんが、日本がロシア・ウクライナ戦争以前の過去40年に受け入れた難民数の2倍以上に相当します。

このように、難民問題は日本にとっても対岸の火事とは言えないものとなりつつあります。

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脚注   [ + ]


田中英三郎(たなか・えいざぶろう)
2001年愛媛大学医学部を卒業、精神科医師。ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)等で社会疫学を研究、公衆衛生学修士、博士(医学)。国立国際医療研究センター、国境なき医師団、都立梅ヶ丘病院、兵庫県こころのケアセンター等を経て、2021年よりJICAヨルダン事務所・ヨルダン保健省精神保健政策アドバイザーを務めている。