(第9回)「どのような場合にくすりを中止しますか?」

こころのくすり、くすりのこころ(渡邉博幸)| 2021.06.07
「いつまでくすりを飲まないといけないの?」「副作用が心配です」「今のくすりが合わない気がする……」。精神科のくすりを服用する際、当事者や家族は疑問や不安を抱くことがあるでしょう。くすり以外の方法を用いることも大切です。医療者が一方的に治療を提供するのではなく、当事者・家族・支援者が見通しを共有し、よりよい治療につながる工夫を考えます。

(毎月上旬更新予定)

くすりの中止に際して精神科医が考えること

みなさんは、薬局で購入できるような市販薬の服用をどんなタイミングでやめていますか? 一過性の頭痛や咳、鼻水、胃のムカムカなどの場合でしたら、よほどひどくなければ、症状がおさまったら数日で飲むのをやめてしまうのではないでしょうか。

精神疾患は再発しやすいものが多く、くすりのやめ時については、いまだにさまざまな議論があります。従来からの標準的な考え方では、原則中止せずに飲み続けるほうが症状の再発を防げるとされています。また、十分に回復する手前で服用を中断し再発するというパターンを繰り返すと、症状がより重症化したり、くすりの効果が発揮されづらくなってしまう場合があります。

では、くすりを中止するのは、どのような場合でしょうか?

副作用が出た場合に、ただちにくすりを中止するというのは、きわめて合理的・常識的な判断と思われるでしょう。しかし、こころのくすりの場合は、現れた副作用について、もう少し複雑な検討が必要となります。こころのくすりの多くは、自律神経機能に作用してその乱れを整えますが、反対に自律神経機能を一過性に動揺させてしまうことも多いのです。たとえば、うつ病の人が抗うつ薬を飲むと、もともとの身体症状や自律神経症状が悪化することがあり、「動悸を抑えるくすりを飲んだらかえってドキドキして困る」「くすりを飲んでよけい具合が悪くなった」と嘆かれることもあります。

このような副作用は飲み始め1週間程度で出現するのですが、困ったことにくすりの効果の実感はこれより少し遅れることも多く、内服の初期には患者さんは副作用しか体感できないというつらさがあるのです。

医師としては、患者さんが困っている副作用が、そのままやり過ごすうちに次第におさまっていくものなのか、それともただちに対処しなければますます悪化するタイプのものなのかを的確に識別する力が求められます。

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渡邉博幸(わたなべ・ひろゆき)
千葉市にある都市型の精神科専門病院である木村病院で働いています。とくに専門をもたずにいろいろな患者さんを診ていますが、最近は産後メンタル不調の方や若い方に多くかかわっています。薬のこと、こころのこと、暮らしのこと、さまざまな困りごとに、いろいろなスタッフと協力し試行錯誤しながら答えを探す毎日です。著書:『統合失調症治療イラストレイテッド』(星和書店)ほか。