オンライン授業とID(吉永一行)

法律時評(法律時報)| 2020.09.28
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」92巻11号(2020年10月号)に掲載されているものです。◆

1 元の対面授業に戻れるのか

2020年10月号(1,950円+税)

率直に言えば、拍子抜けであった。

私は10年ほど前に、前任校(京都産業大学)においてオンライン授業の推進に関わる仕事をしていた1)。自分でもオンデマンド動画型のオンライン授業を勤務校の全学共通科目として開講し、同時に大学コンソーシアム京都の単位互換科目として提供した。そのかたわら、同僚にも「eラーニングで授業をやってみませんか」と声をかけたりもしてみたのだが(この頃の私の愛称は「eラーニング親善大使」であった)、全く広がらなかった。

それが、2020年4月の1か月間で様相は全く異なるものとなった。新型コロナウイルス感染症の拡大により、大学は対面授業からオンライン授業への切り替えを進めていった。法学部どころか日本中の大学で、教員はみんなオンライン授業を経験することになってしまった。どんなに梃子や滑車を工夫しても動かなかった大きな岩が、電源ボタンを押したら起動音と共に転がり始めたかのような奇妙な心持ちである。

端末の性能や通信環境が大幅に向上したことも要因の1つだろうが、結局「やらなければならない」状況以上に世の中を変える力をもつものなどないということだろうか。

もっとも、必要が変化の原因だったのだとすれば、必要がなくなれば、元に戻るのかもしれない。キャンパスにはまた学生が集まり、私たちも、満員の(あるいは空席だらけの?)大講義室で教壇に立つことになるのだろう。

しかし、そのとき本当に元に戻るのだろうか。

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脚注   [ + ]

1. この事業については阿部一晴ほか「京都地区における複数大学eラーニング連携事業の取組」情報処理学会第73回全国大会講演論文集(2011年)373頁以下を参照。