(第14回)評決その後

渋谷重蔵は冤罪か?―19世紀、アメリカで電気椅子にかけられた日本人(村井敏邦)| 2019.10.24
日本開国から24年、明治の華やかな文明開化の裏側で、電気椅子の露と消えた男がいた。それはどんな事件だったのか。「ジュージロ」の法廷での主張は。当時の日本政府の対応は。ニューヨーク州公文書館に残る裁判資料を読み解きながら、かの地で電気椅子で処刑された日本人「渋谷重蔵」の事件と裁判がいま明らかになる。

(毎月下旬更新予定)

評決

裁判長の説示が終わり、陪審員たちが評議に入る前に、弁護人から裁判長に対して、以下の3点について、陪審員に伝えるようにとの要望が出された。

第1に、この裁判において、どの点であれ、証人の宣誓が虚偽であった場合には、その証言はすべて無視しなければならないこと、

第2に、殺人の故意を形成することができないほどに被告人が酩酊した場合には、被告人に対して第1級殺人の罪で有罪を宣告することができないこと、

第3に、被告人であるという事実と理由だけによって、陪審員は被告人の証言を無視する権利はないこと。

ブラディ裁判長は、第1点については陪審員に伝えること、他の2点はすでに伝えたと述べた後、第3点に関して、

もちろん、そのような権利は陪審員にはない。被告人は、有罪が証明されるまでは、無罪であることが推定されるが故に、犯罪で起訴されているという理由をもって、被告人の証言を拒否することはできない。

と述べた。

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村井敏邦(むらい・としくに 弁護士・一橋大学名誉教授)
1941年大阪府生まれ。一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授などを歴任。『疑わしきは…―ベルショー教授夫人殺人事件』(日本評論社、1995年、共訳)、『民衆から見た罪と罰―民間学としての刑事法学の試み』(花伝社、2005年)ほか、著書多数。