(第6回)歴史の「誤用」 — ナイン・イレブンから25年
現在史のプリズム(三浦俊章)| 2026.09.09
第二次世界大戦後に築かれた国際秩序がいま大きく変容し、崩れつつあります。その秩序をつくったアメリカのトランプ大統領自らが「法の支配」を無視し、むき出しの強者の論理を押し付けているのです。私たちは、視界不良のまま海図なき航海に乗り出しているのではないでしょうか。とはいえ、現在の私たちがあるのは、過去の歴史の積み上げの結果なのです。世界と日本のこれまでの歩みを振り返り、歴史の知恵を生かして私たちの現在と未来を考える連載を始めます。(毎月上旬更新予定)
歴史から学ぶべきだ、とよく言われる。だが、歴史はしばしば、現在を理解するためではなく、現在の判断を正当化するために使われる。ちょうど25年前に起こった同時多発テロ事件(ナイン・イレブン)は、その最たる例だった。あの時に始まった度重なる歴史の「誤用」は、その後のアメリカと世界の歴史を変えてしまった。私は当時、朝日新聞のワシントン特派員として赴任して半年余りだった。仕事に慣れてきたころにこの大事件にぶつかった。当時の取材メモを手がかりに、そのプロセスを振り返ってみよう。
ここでは、ナイン・イレブン後のアメリカが過去の歴史的経験をどのように受け止め、それが政策判断をどのようにゆがめていったのかをたどってみたい。取り上げるのは二つのアナロジーである。ひとつは、事件を「真珠湾」と重ねたことで、犯罪として向き合うべきテロを、国家間戦争の枠組みに押し込めてしまったこと。もうひとつは、イラク占領に戦後日本の経験を重ね、現地社会の状況を見誤ったことである。
まず、事件の基本的事実を確認しておきたい。
2001年9月11日の早朝、アルカイダは4機の旅客機をハイジャックし、自爆攻撃を行った。ニューヨークの世界貿易センターは崩壊し、ワシントンの国防総省(ペンタゴン)は炎上した。連邦議事堂を狙ったとされる4機目は、乗客の抵抗に遭い、ペンシルベニア州で墜落した。この事件は、冷戦後の世界で唯一の超大国となり、万能感に酔いしれていたアメリカ国民を痛撃した。

三浦俊章(みうら・としあき)元朝日新聞記者。政治部、ワシントン特派員、論説委員、編集委員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーターなどを歴任。主著に『ブッシュのアメリカ』(岩波新書、2003年)、共訳に『アメリカ大統領演説集』(岩波文庫、2025年)など。














