(第5回)変わらないことの代償 — 変えないことがもたらす損失は見えにくい

世界の心理学研究ノート(綿村英一郎)| 2026.08.13
今日も人の心をめぐる実験や調査が世界中で行われています。その結果は,私たちの日常や社会をどう照らしているのでしょうか? 本連載では,国内外の心理学研究を手がかりに「人はなぜそう考え,そう振る舞うのか」を考えます。難解に見える研究をできるだけ平易な言葉で紹介しつつ,心理学者である筆者がその面白さ,応用の可能性,違和感,限界などについて率直にお話しします。研究は万能な答えではなく,思考を広げるヒントです。研究室と日常のあいだを行き来しながら,心の世界を一緒に探りましょう。

(毎月中旬更新予定)

昼休み,コンビニでお弁当を選ぶ場面を想像してください。新商品が気になりつつ,結局いつものお弁当に手が伸びてしまう。スマートフォンのアプリも,少し使いづらいなぁ……と思いつつ,慣れたものをそのまま使い続けてしまう。長年維持されてきた社会制度や仕組みに対しても,「もう変えたほうがいい気もする」と普段は感じながら,いざ変更するとなると急に不安になる。そんな経験はないでしょうか。もちろん,現状を維持すること自体を否定するものではありません。長く続いている習慣や社会制度には,それなりの理由や安定性があることがあります。変化にはコストも伴いますし,「変えた結果,今より悪くなったらどうするのか」という感覚は,ごく自然なものです。

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綿村英一郎(わたむら・えいいちろう)
大阪大学大学院 人間科学研究科 教授。
東京大学文学部卒業。公務員として数年勤務したのち大学院に進学,博士号取得(東京大学大学院,2012年)。慶応義塾大学で特別研究員,東京大学で助教を経て,2017年4月に大阪大学に准教授として着任。2025年4月から現職。研究テーマは安楽死法,AIと法,児童虐待,少年法など司法と心理学の結節点に展開する諸問題。論文,学会発表は多数(参考URL:https://researchmap.jp/watamuraeiichiro

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