(第91回)会社法の20年とこれから — 同意なき買収と防衛策(野澤大和)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2026.06.11
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

田中亘「同意なき買収と防衛策」

ジュリスト1618号(2026年)60頁より

2005年に成立した会社法は、2014年及び2019年に実質的な改正がされたが、2019年の改正から7年が経過しようとしており、国内外の情勢変化に伴い、会社法に係る課題の検討が必要な時期に至っている。2025年2月、法制審議会において会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する諮問がされ、その調査審議を行うために、会社法制(株式・株主総会等関係)部会を設置することが決定された。2026年4月2日、会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案が公表され、同年5月22日までパブリックコメントの手続に付されており1)、現在、会社法改正の議論が進んでいる。

2024年金融商品取引法改正により公開買付制度及び大量保有報告制度について約18年ぶりとなる大幅な改正が行われ、特に公開買付制度については、いわゆる3分の1ルールの閾値を30%に変更することや市場内買付けについても公開買付けの対象に含めること等、企業買収に関する重要な見直しがされており、2026年5月1日から施行されている2)

さらに、2023年8月に策定・公表された「企業買収における行動指針」は、上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に原則論やベストプラクティスを提示したものとして、日本のM&A実務に大きな影響を与えた。現在、「公正な買収の在り方に関する研究会」では、①指針の原則・エッセンスや留意すべき点等を短くまとめた「指針のポイント」、②具体的な局面を例示して、どのように行動するのが望ましいかを示す「Q&A」、③近時のM&Aの実態を踏まえた課題認識・問題提起を取りまとめた「今後の検討課題」を2026年7月頃にそれぞれ公表する予定であるとされている3)

このように、会社法を含む企業買収法制に関する見直しが進んでいる状況において、会社法制定後の20年間における企業買収法制の形成の歴史を振り返り、将来のより良い企業買収法制・実務の在り方を議論することは意義があると考えられる。

本稿は、「会社法の20年とこれから」という特集の中の一つの論文であるところ、会社法制定と日本で防衛策が普及する契機にもなったニッポン放送事件(東京高決平成17年3月23日判時1899号56頁)が起きてから20年が経過していることを踏まえ、この20年間における同意なき買収と防衛策を巡る法状況について概観し、今後の課題や展望を述べるものである。

近時、日本において同意なき買収が目立つようになった背景には、同意なき買収を巡る社会的・経済的環境の変化や法制度上の要因がある。上場会社を対象とした同意なき買収については、従来、事業会社・金融機関との間の株式の相互保有(持合い)や安定保有により、対象会社の取締役会の同意なく、対象会社の経営支配権を取得することは極めて困難であり、ネガティブな社会的評価も相まって、同意なき買収に対するハードルは高かった。しかし、近時、上場会社の株式所有構造は事業会社・金融機関優位から、株主利益最大化の観点から買収条件が満足できるものである限り、同意なき買収に応じることも躊躇しない機関投資家優位の構造に変化してきた。また、コーポレートガバナンス改革を経て、買収提案を受けるかどうかの判断に際して買収条件をより重視すると考えられる独立社外取締役の人数や割合が増加している。このような株主構成や取締役会構成の変化が近時の同意なき買収の実現をもたらしている。

また、同意なき買収を巡る法制度について、日本の会社法・金融商品取引法は、部分公開買付けが許容されていたり、特別決議に必要な議決権を取得するだけで株式併合による対象会社の全部買収が可能である等国際的に見て比較的穏やかな規制であり、同意なき買収を含めた買収が行いやすい特徴であることが指摘されている。

このような社会的・経済的環境変化及び法制度を背景に、日本でも同意なき買収の可能性が現実味を帯びるようになり、2005年のニッポン放送事件を契機に、いわゆる事前警告型防衛策の導入が進んだ。事前警告型防衛策は、防衛策導入の時点で何らか具体的な対抗措置をとるのではなく、一定の場合にそれをとる可能性があることを将来の買収者に予告(警告)するものである。しかし、2010年代頃から、防衛策は会社の経営の規律を損なうという批判的な見方が、特に機関投資家の間で強まり、防衛策の導入・更新議案への賛成が得られにくくなっており、導入企業は年々減少している。もっとも、事前警告型防衛策を導入していない会社でも、同意なき買収を標的に防衛策を導入し(いわゆる有事導入型)、対抗措置を発動することがあり得、対抗措置の適否が裁判で争われている。

同意なき買収への対抗措置として差別的新株予約権無償割当てが初めて行われた2007年のブルドックソース事件では、対象会社は買収者に割り当てた新株予約権を直ちに現金対価で買い取るという形で経済的補償を行った。その最高裁決定(最決平成19年8月7日民集61巻5号2215頁)では、その点も理由の一つとして対抗措置の適法性を認めたが、かえって補償を得る目的の買収を誘発するという批判を受けた。その批判を踏まえて、現在の実務では、買収者に撤回の機会を保障することで現金での経済的補償をしない対抗措置とされており、裁判例においても適法と認められている。その結果、近年、公開買付けによる同意なき買収に対し、対象会社が対抗措置として差別的新株予約権無償割当てを決定し、それに対して買収者は差止めの仮処分を求め、仮処分が認められなかったときには公開買付けを撤回し、それを受けて対象会社も対抗措置発動を中止するという形で、同意なき買収を巡る法的攻防に一定のルールができつつあることが指摘されている。

対抗措置の適否が争われたリーディング・ケースであるブルドックソース事件最高裁決定は、対抗措置の適法性について、企業価値ないし株主共同の利益の観点から対抗措置発動の必要性があること(必要性要件)及び対抗措置が手段として相当性を欠くものでないこと(相当性要件)という判断基準を示すとともに、対抗措置が株主総会の承認を得ているときは、特段の事情がない限り、必要性要件は充足されるという解釈を示した。同決定以来、裁判例は、対抗措置の必要性が認められるか否かの判断に際し、「対抗措置が株主の意思に基づいているといえるか」を極めて重視するようになった(株主意思尊重の原則)。これに対し、防衛策の導入も対抗措置の発動も取締役会限りの決定で行われた場合のように、対抗措置が株主の意思に基づいているといえない場合には、対象会社は、同意なき買収が株主の共同の利益を害し、それを防止するために対抗措置が必要であることの具体的な疎明・立証が求められる。田中教授は、対抗措置の適法性判断における株主意思尊重の原則を支持するが、それについては賛否の分かれ得るところであると指摘する。

株主意思の確認の方法は、①株主総会の法定決議事項によって行う必要はなく、法定決議事項以外の事項についての決議(勧告的決議)によって行ってもよいこと、②特別決議による必要はなく、普通決議に必要な決議要件を満たせばよいこと、③事情によっては、対抗措置の発動が「対象会社の株主のうち、買収者(その関係者を含む)および対象会社の取締役(その関係者を含む)を除く出席株主の議決権の過半数による決議」(いわゆるMOM決議)によって承認されたことをもって、対抗措置が株主の意思に基づいていると認められる場合があることが裁判例によって明らかにされている。もっとも、③のMOM決議による対抗措置の発動がどこまで許容されるかは未解決の問題として残されている。

防衛策・対抗措置の最新の裁判例である2025年の牧野フライス製作所事件(東京地決令和7年5月7日金判1728号34頁)において、公開買付けによる同意なき買収に対して、同社が導入した防衛策に基づく対抗措置の発動は、その後に開催される定時株主総会での承認を条件としていた。裁判所は、その実際上の効果として、取締役会限りの判断によって、買収者による公開買付けの完了を当該定時株主総会後の日まで遅らせる効果(中間的効果)を持つことを認めつつ、伝統的な防衛策の目的が買収自体を阻止することにあるのとは異なり、同社が導入した防衛策は、競合提案の受領・検討等のために合理的に必要な期間を確保することが目的であるとした上で、公開買付けの完了を1か月程度遅らせることにより、競合提案がなされるであろう蓋然性が生じ、又は高まるといえることから、株主共同の利益の観点から合理性が認められ、適法と認めた。

本決定については、合理的な時間確保の目的であれば、取締役会の判断で相当な防衛策・対抗措置をとることも許容してよいとして支持する立場もあり得る。他方で、防衛策・対抗措置によって買収の実現を遅らせれば、予定したスケジュール・条件で買収できないことを嫌った買収者が買収提案を撤回し、結果として買収自体を阻止するように働く可能性は否定できないことや、どの程度の時間であれば「合理的」といえるか明確でないことから、対象会社の取締役会が「合理的」な時間確保のためであると称して防衛策を導入し、同意なき買収の実施を不当に引き延ばすおそれも現実的にあることが指摘されている。さらに、株主が強圧性を受けないで買収の是非を判断できる仕組みを採用した非強圧的な公開買付けに対しては、防衛策・対抗措置を認めず、取締役会に競合提案を受領・検討等する機会を与えるかどうかも含めて、公開買付けに応募するか否かの判断を通じて株主に決定させれば足りるとする立場もあり得たことが指摘されている。

以上の振り返りを経て、田中教授は、日本の企業買収法制は、厳格な公開買付規制の下で防衛策を禁止する英国型ではなく、裁判所が「相当」と認める範囲で防衛策を許容する米国型に近い方向に進むことが確定したと評価する。これが企業買収法制の在り方として望ましいものであるか議論の余地があると指摘されるが、会社法制定後の20年における企業買収法制の形成の歴史を踏まえて、裁判所の法解釈を通じて同意なき買収と防衛策の実務が適切に行われるための議論を行う際に、本稿は大いに参考になろう。今後、企業価値を向上させる買収が実現され、企業価値を毀損する買収が防止されるように、日本のM&A実務が健全な方向に進むことを期待したい。なお、本稿は、「会社法の20年とこれから」という特集の中の一つの論文であり、他にも企業関連法制の各テーマごとに示唆に富む論文が多数あるため、興味のある読者はぜひ手に取って読んでいただきたい。

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脚注   [ + ]

1. 法務省「「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」(令和8年3月18日)の取りまとめ」(2026年4月2日)
2. 金融庁「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」(2025年7月4日公表、2026年4月15日更新)
3. 公正な買収の在り方に関する研究会「第10回事務局説明資料」(2026年4月28日)【PDF】

野澤大和(のざわ・やまと)
2004年東京大学法学部卒業。06年東京大学法科大学院修了。07年弁護士登録。08年西村あさひ法律事務所入所。14年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。14年~15年Sidley Austin LLP(シカゴオフィス)で研修。15年ニューヨーク州弁護士登録。15年~17年法務省民事局に出向(会社法担当)。19年西村あさひ法律事務所パートナー。主な書籍・論文として、『公開買付・大量保有報告制度の改正と実務対応』(共著、商事法務、2026年)、「基準日後に株式を取得した株主・単元未満株主による反対株主の株式買取請求の可否」旬刊商事法務2416号(2026年)、「『内部統制』の法的位置づけ」ビジネス法務25巻5号(2025年)、『企業法務のリーガル・リサーチ』(共著、有斐閣、2025年)、「定款規定がない場合における買収への対応方針の廃止を求める株主提案の可否」旬刊商事法務2381号(2025年)、「指名委員会等設置会社制度の改善に向けて-」旬刊商事法務2381号(共著、2025年)、『新株発行・自己株処分ハンドブック』(共著、商事法務、2024年)、「自己株式の取得・処分の事例分析-2023年6月~2024年5月」資料版商事法務485号(共著、2024年)、『デジタル株主総会の法的論点と実務』(共著、商事法務、2023年)、『実務問答会社法』(共著、商事法務、2022年)、『令和元年会社法改正と実務対応』(共著、商事法務、2021年)、『M&A法大全〔上〕〔下〕』(共著、商事法務、2019年)ほか多数。

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