(第94回)改正公益通報者保護法と企業実務への影響(松井博昭)
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山口利昭「改正公益通報者保護法の実効性担保措置が企業実務に与える影響」
ジュリスト1613号(2025年8月)49頁
令和7年6月4日、改正公益通報者保護法1)が成立し、同年6月11日に公布され、令和8年12月1日に施行される予定である(以下「改正法」といい、改正前の法律を「現行法」という。)。山口利昭「改正公益通報者保護法の実効性担保措置が企業実務に与える影響」(ジュリスト1613号49頁)は、改正法の成立直後の記事であるが、改正法の内容を紹介し、改正法が企業実務に与える影響について解説しており、実務上も有益と思われた。なお、本稿の公表後、消費者庁が、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」(以下「指針」という。)2)、指針の解説3)、公益通報者保護制度Q&A4)を改正・公表しており、消費者庁関係者らによる解説記事として三宅好浩ほか「公益通報者保護法の改正に伴う内閣府告示等の改正概要—『指針』と『指針の解説』」(NBL1315号21頁)が存在し、公益通報に関する対応を検討する上では、これらの資料についても参照が必須である(以下ではこれらの資料についても参照し、補充している。)。
まず、現行法は、公益通報を行った従業員に対する解雇を無効とし、不利益取扱いを禁止しているが、これに対し、改正法は、解雇を含めた不利益取扱いを禁止し(3条1項)、解雇処分に加えて懲戒処分についても無効とした(3条2項)。また、公益通報をした日から1年以内に解雇又は懲戒がなされたときは、無効規定の適用について、当該解雇又は懲戒は公益通報をしたことを理由としてなされたものと推定することとされた(3条3項)。
次に、改正法は、事業者の公益通報対応体制に係る周知義務を法律上明示した(11条2項)。事業者が周知するべき事項は、①内部公益通報受付窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法、②組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容、③公益通報対応業務の実施に関する措置の内容、④公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容、⑤不利益な取扱いの防止に関する措置の内容、⑥範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容、⑦是正措置等の通知に関する措置の内容、⑧記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置の内容、⑨公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項と9項目に及び(指針第4.3(3))、特に常時使用する労働者の数が300人超の事業者については制度導入が必要であるが(11条3項参照)、中規模事業者にとどまる事業主の負担は大きい。
また、現行法は、刑事罰の対象として、公益通報対応業務従事者による守秘義務違反行為を定めていたが、改正法は、公益通報を行ったことを理由とした解雇又は懲戒処分(21条1項)、内閣総理大臣からの命令に対する違反行為(21条2項)も対象に含めた。解雇又は懲戒処分については、行政処分を前提とせずに刑事罰の対象となる直罰方式であるほか、公益通報が理由であることを知って、これらの措置の意思決定に関与した個人も処罰の対象になるが、法人に対する刑事罰は個人よりも重く設定されている(23条1項1号。なお、解雇等特定不利益取扱い以外の通報者への不利益取扱いに対する刑事罰導入は見送られた。)。また、公益通報対応業務従事者の指定義務への違反に対しては、内閣総理大臣から勧告がなされ(15条の2第1項)、勧告に係る措置がとられなかった場合には命令がなされ得るが(15条の2第2項)、当該命令にも違反した場合には刑事罰も科され得る。
さらに、改正法は、事業者が正当な理由なく労働者等に公益通報者である旨を明らかにすることを要求する行為等、公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止し(11条の3)、事業者が正当な理由なく労働者等に公益通報をしないことを約束させるなどの公益通報を妨害する行為を禁止し(11条の2第1項)、これに反する契約締結等の法律行為は無効とした(11条の2第2項)。
本稿は、改正法を踏まえ、内部通報制度の運用についていくつか指摘をしている。
まず、本稿は、改正法を踏まえて内部通報制度の見直しを行うことの必要性について強調している。実際に、改正法により公益通報者保護法に罰則規定や禁止規定が増えており、事業者が周知するべき事項も明確化されるなど、社内における内部通報制度の見直しは必須であると思われる。
次に、本稿は、1号通報(内部通報)に加えて、2号通報(行政通報)、3号通報(外部通報)を想定した対応体制整備が必要であると指摘する(各通報の定義については改正法3条1項各号参照)。理想論としては本稿の指摘するとおりであるが、事業者が通報の名宛人となり直接情報を受け取る1号通報と異なり、2号通報、3号通報の場合、通報の存在自体が不確かであり、特定行為、探索行為も禁止されている状況であれば、事業者にとっては対応が難しい局面もあるように思われる。
また、本稿は、ハラスメントも公益通報に該当し得ることがあり、ハラスメントに関する通報については原則として公益通報として取り扱うべきであると指摘する。この点、公益通報者保護制度Q&Aは、職場で行われたパワー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメントについての通報は、原則として公益通報には該当しないとしつつ、これらの行為が暴行・脅迫や不同意わいせつ等の犯罪行為に該当する場合には公益通報に該当し得るとする(Q3)。もっとも、通報を受け付けた段階では、必ずしも上記のような犯罪行為に該当しないとは断定できない以上、少なくともハラスメントに関する通報であることのみを理由として事業者が公益通報に該当しないと取り扱うことは適切ではないようにも思われる。なお、現行法下の民間調査ではあるが、株式会社エス・ピー・ネットワークによる「内部通報制度の運営状況アンケート調査(2024年)」は当該説明の回答企業208社のうち32.6%が、「パワハラではないかとして通報が入るのが全体の51%以上」と回答したことを明らかにしており5)、ハラスメント関連の通報が内部通報全体に対して占める割合は相応に高いことが窺われる。
さらに、本稿は、法改正の検討過程で、虚偽の情報と知って通報する、既に対処済みである事案を何度も通報するといった濫用的通報者について保護対象外であることを明確にするべきという意見があったものの導入が見送られたという経緯を紹介し、その上で、仮に濫用的通報者を保護対象外と整理して、企業に濫用的通報者であることの特定作業を課す場合、運用次第では事業者の負担が重くなり、不利益をもたらすおそれもあると指摘している。
本稿が指摘するように、公益通報者保護法や内部通報制度の運用については、改正法の施行に伴い、事業者の負担が相当程度重くなると見込まれている。その中でも、本稿は、事業者が取るべき具体的対応や制度の在り方についてもコメントしており、実務上も参考になると思われた記事である。
本論考を読むには
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脚注
| 1. | ↑ | 公益通報者保護法の一部を改正する法律 新旧対照条文【PDF】 |
| 2. | ↑ | 消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」【PDF】 |
| 3. | ↑ | 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説~指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方や具体例~」【PDF】 |
| 4. | ↑ | 消費者庁「公益通報者保護制度Q&A」【PDF】 |
| 5. | ↑ | 株式会社エス・ピー・ネットワーク「内部通報制度の運営状況アンケート調査(2024年)」 |
松井博昭(まつい・ひろあき)AI-EI法律事務所 パートナー 弁護士(日本・NY州)。信州大学特任教授、日本労働法学会員、日中法律家交流協会理事。早稲田大学、ペンシルベニア大学ロースクール 卒業。
『和文・英文対照モデル就業規則 第3版』(中央経済社、2019年)、『アジア進出・撤退の労務』(中央経済社、2017年)の編著者、『コロナの憲法学』(弘文堂、2021年)、『企業労働法実務相談』(商事法務、2019年)、『働き方改革とこれからの時代の労働法 第2版』(商事法務、2021年)の共著者を担当。














