(第6回)ヒンメルならそうした — なぜ人は過去を懐かしむのか
世界の心理学研究ノート(綿村英一郎)| 2026.09.14
今日も人の心をめぐる実験や調査が世界中で行われています。その結果は,私たちの日常や社会をどう照らしているのでしょうか? 本連載では,国内外の心理学研究を手がかりに「人はなぜそう考え,そう振る舞うのか」を考えます。難解に見える研究をできるだけ平易な言葉で紹介しつつ,心理学者である筆者がその面白さ,応用の可能性,違和感,限界などについて率直にお話しします。研究は万能な答えではなく,思考を広げるヒントです。研究室と日常のあいだを行き来しながら,心の世界を一緒に探りましょう。(毎月中旬更新予定)
ヒンメルならそうした——。人気コミック『葬送のフリーレン』(小学館)を知っている人なら,一度は心を動かされた言葉ではないでしょうか。かつて旅を共にした勇者ヒンメルは,もういません。それでも主人公フリーレンとかつて共に旅をした仲間たちは,誰かを助けるときも,何かに迷ったときも,この言葉を口にします。
これは物語の中だけの話ではありません。亡くなった家族や恩師の言葉をふと思い出して勇気をもらったり,昔の友人との出来事を思い返して励まされたりした経験は,私たちにもあるでしょう。フリーレンたちの世界と同じように,私たちは過去には戻れません。それでも,ときどき過去を思い出し,その記憶に支えられながら生きています。
心理学では,このような「懐かしい」という感情をノスタルジア(nostalgia)と呼びます。かつてノスタルジアは,故郷を離れた人が抱くホームシックのような,どちらかといえば病的な感情だと考えられていました。しかし近年の研究は,それとは異なる姿を明らかにしています。
綿村英一郎(わたむら・えいいちろう)大阪大学大学院 人間科学研究科 教授。
東京大学文学部卒業。公務員として数年勤務したのち大学院に進学,博士号取得(東京大学大学院,2012年)。慶応義塾大学で特別研究員,東京大学で助教を経て,2017年4月に大阪大学に准教授として着任。2025年4月から現職。研究テーマは安楽死法,AIと法,児童虐待,少年法など司法と心理学の結節点に展開する諸問題。論文,学会発表は多数(参考URL:https://researchmap.jp/watamuraeiichiro)














