(第7回)羨望される側の心理学 — 成功がもたらす意外な孤独
世界の心理学研究ノート(綿村英一郎)| 2026.10.15
今日も人の心をめぐる実験や調査が世界中で行われています。その結果は,私たちの日常や社会をどう照らしているのでしょうか? 本連載では,国内外の心理学研究を手がかりに「人はなぜそう考え,そう振る舞うのか」を考えます。難解に見える研究をできるだけ平易な言葉で紹介しつつ,心理学者である筆者がその面白さ,応用の可能性,違和感,限界などについて率直にお話しします。研究は万能な答えではなく,思考を広げるヒントです。研究室と日常のあいだを行き来しながら,心の世界を一緒に探りましょう。(毎月中旬更新予定)
他人から羨ましがられる。多くの人にとって,それは悪い気分ではないでしょう。仕事で成果を上げる。試験に合格する。理想的なパートナーと出会う。そんな成功を手にしたときに,「すごいですね」「羨ましいです」と言われれば,誰しも誇らしい気持ちになるものです。近年は SNS の普及によって,こうした羨望はさらに身近なものになりました。旅行先の写真,高級レストランでの食事,昇進の報告,充実した休日の様子。Instagram や Facebook には,人々が羨ましいと感じる情報があふれかえっています。だからこそ,私たちは「羨ましがられること=良いこと」と無意識に考えているのではないでしょうか。確かに,他人から認められたり憧れられたりすることは自信や自己肯定感につながります。しかし,その反面で,そういう羨望が人間関係に思わぬ影を落とすとしたらどうでしょうか。近年の組織心理学では,羨望する側ではなく、「羨望される側」の心理に注目した研究が行われています。その研究が示したのは,羨まれることが必ずしも幸福な経験ではなく,時に不安や孤独を生み出すという意外な事実でした。
綿村英一郎(わたむら・えいいちろう)大阪大学大学院 人間科学研究科 教授。
東京大学文学部卒業。公務員として数年勤務したのち大学院に進学,博士号取得(東京大学大学院,2012年)。慶応義塾大学で特別研究員,東京大学で助教を経て,2017年4月に大阪大学に准教授として着任。2025年4月から現職。研究テーマは安楽死法,AIと法,児童虐待,少年法など司法と心理学の結節点に展開する諸問題。論文,学会発表は多数(参考URL:https://researchmap.jp/watamuraeiichiro)














