クマ問題から動物法学を考える—秋田県の事例を契機として(青木人志)
法律時評(法律時報)| 2026.04.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」98巻5号(2026年5月号)に掲載されているものです。◆
1 秋田県におけるツキノワグマの大量出没
この2月に秋田県に出かけた。市街地のスーパーの入り口にクマ忌避剤が置かれ、誰に会ってもクマの話になる。2016年4月から2026年2月までの10年足らずに秋田県で発生したツキノワグマによる人身被害人数は237人、死者も11人にのぼる。とりわけ2025年度は2026年2月末までの暫定値で67人もの人身被害があり、4人が死亡している1)。
2 海外におけるクマと人の軋轢

地球上にクマは8種類生息している。ホッキョクグマ、ヒグマ、アメリカクロクマ、ジャイアントパンダ、メガネグマ、ナマケグマ、ツキノワグマ、マレーグマである。これらのクマたちは日本の外でどのくらい人間と軋轢を起こしているだろうか。Penterianiらの研究によると、ホッキョクグマについては144年間あまりに20人が死亡し63人が負傷したという2017年の報告がある。アメリカクロクマについては、1980年から2016年の間に373人への攻撃が確認され、その約11%が死亡している。ナマケグマについては、1989年から1994年の間にインドのマディヤ・プラデーシュ州で48人の死亡事故と687人の負傷事故があった。アラスカでは135年間に700件近いクマによる事故があり、そのうち78%はヒグマによるものであった。マレーグマについては情報が少なく人身被害については11例しか報告がなく、ジャイアントパンダとメガネグマによる人身被害はほとんどない2)。被害者数の相対的に多いインドのマディヤ・プラデーシュ州は、秋田県の約100倍の人口を擁し、面積も秋田県の約26.5倍あるので、海外における人とクマとの軋轢は、いずれも秋田県ほど深刻ではなさそうだ。
脚注
| 1. | ↑ | 本稿で引用する我が国の数値データは、断りがないかぎり、本稿を執筆している2026年3月15日現在、環境省や農林水産省がウェブサイトで公表しているものである。 |
| 2. | ↑ | Penteriani et al, “Patterns of Bear Attacks on Humans, Factors Triggering Risky Scenarios, and How to Reduce Them,” Penteriani and Melletti, Bears of the World, Cambridge University Press, 2021, pp.239-249. |













