EXPO2025(片桐直人)

法律時評(法律時報)| 2025.06.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」97巻8号(2025年7月号)に掲載されているものです。◆

1 万博の夢

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

EXPO2025大阪・関西万博(以下、「EXPO2025」という。)が開幕した。国際博覧会条約(以下、「条約」という。)における国際博覧会には、総合的なテーマを掲げ、最大6ヶ月の長期間にわたって開催される登録博覧会(1995年改正以前の条約における一般博覧会に相当)と、特定の明確なテーマを掲げ、開催期間最大3ヶ月・会場面積25ヘクタール以下の規模で開催される認定博覧会(1995年改正以前の条約における特別博覧会に相当)とがある1)が、EXPO2025は、2005年の愛知万博に次ぐ二度目の登録博覧会であり、1995年の条約改正以前の一般博覧会として開催された1970年大阪万博も含めれば、我が国で開催される3度目の、いわばフル規格の博覧会である。

大阪に住んでいると、1970年大阪万博のレガシーが良くも悪くも色濃く残っているのを感じる。見る人に今なお、人類の現在・過去・未来について様々なインスピレーションを与え続けている太陽の塔だけではない。普段何の気なしに接している街路やビルもまた1970年の万博の際に建設されていることも少なくない。これらの風景や街並みを通じて、私たちは、日常の中に顔をだす、当時の「最先端」に驚くとともに、それが陳腐化し、場合によっては「お荷物」とさえ感じさせることの切なさも感じている。1970年大阪万博はその意味で、負の側面も含めた、「文化」と「開発」の象徴であり続けている。

「文化」と「開発」とは、必ずしも幸福に調和するとは限らない。まさに太陽の塔が象徴するところである。しかし、この矛盾を取り込みながら、前へ進もうとするところに万博のパワーがある。そのパワーには、ときに、万博の外で「ハンパク」のような運動2)をも巻き起こしつつ、さらにはそのような万博外のエネルギーをも自らの糧にしながら万博を国民的体験に押し上げ、社会をこれまでとは違うステージへと誘うポテンシャルがある3)、と考えられてきた。

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脚注   [ + ]

1. 国際博覧会条約3条、4条を参照。
2. 「ハンパク」については多くの文献があるが、差し当たり、山本賢治=番匠健一「関西べ平連の活動と『ハンパク(反戦のための万国博)』」立命館大学国際平和ミュージアム紀要21号(2020年)97頁以下を参照。併せて、大阪地裁昭和51年4月20日訟月22巻6号1567頁(万博開催阻止デモ不許可処分事件判決)、大阪高判昭和51年10月12日判時846号120頁(万博開催反対無許可デモ事件判決)、大阪高判昭和49年9月10日判時781号118頁(太陽の塔侵入事件控訴審判決)なども参照。
3. 吉見俊哉『万博と戦後日本』(講談社、2011年)。