トランプ騒動の伏線—ニューディール型行政国家の凋落?(会沢恒)

法律時評(法律時報)| 2025.05.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」97巻6号(2025年6月号)に掲載されているものです。◆

1 騒々しい第2次トランプ政権の始動

本号が刊行されるのはアメリカ合衆国で第2次トランプ政権が発足しておよそ半年の時点である。この間、バイデン政権下の政策を撤回する大統領令が多数発出され、多様性確保(DEI = diversity, equity & inclusion)のための施策の撤回、「不法移民」の国外追放、ウクライナ紛争への関与の方針変更、パリ協定やWHOからの脱退宣言、関税をめぐる朝令暮改など、対内的にも対外的にも「お騒がせ」な状況が続いている。政策の方向性を変えるのが政権交代の意義だとは言え、いかにも落ち着きがない(脱稿後、本稿が読者の目に触れるまでの間にも何かあるかもしれない)。

定価:税込 2,090円(本体価格 1,900円)

そうした一連の動きの中でも特徴的な点として、トランプ大統領と周辺の共和党指導層は、自らの麾下に置いたはずの連邦政府それ自体を攻撃しているということがある。世界一の富豪イーロン・マスクが主導権を握った政府効率化省(Department of Government Efficiency)は、法的な根拠もマスクの身分も曖昧なまま、連邦政府の他の機関の人事やデータに対して介入を続けている。連邦教育省の解体が叫ばれ、教育に関する権限を州に戻すとされている。

広範な政治任用ポストがあることから、政権交代が起こると各省庁の長官を初めとする連邦政府の主要幹部が多数交代することは、アメリカの政治・行政の常態である。だが、第1次政権後、当時の副大統領マイク・ペンスらも含め、共和党の穏健派・実務派はトランプから距離を置いた。その空白をトランプに個人的忠誠を誓う人々が埋めて、共和党はトランプ党としての性格を強めた。その結果、保健福祉省長官にワクチン懐疑論者が任命されたり、環境保護局長官に化石燃料推進派が送り込まれるといったことになっている。

他方で、少なくない数の連邦政府の一般職員が、政府の効率化の名の下、あるいはトランプ政権の方針に相応しくないとして、放逐ないしそれに準ずる取扱いを受けている。感染症対策や気候変動関連の研究や政策立案に携わっていた職員が、その職務を停止させられている。海外向けの援助事業やクリーンエネルギー関連の職が削減されている。連邦政府の一般キャリア職員は、メリット・システムの下、一定の身分保障を受けるとされる。だが、第1次トランプ政権がその末期に導入したもののバイデン政権によって停止されていた、「政策形成に関わる」職員を身分保障を受けないカテゴリに切り替える施策が、第2次政権開始早々に復活されている。身分保障を受けない、すなわち政権首脳部の任意で解任できる職員の範囲が広げられていることになる。

2 大統領の人事権をめぐるロバーツ・コートの判例動向

こうした動向はいかにも物騒がしいトランプ政権だからこその事象に見えるかもしれない。だが、アメリカ法ウォッチャーである筆者からすると、既に進行中であった方向性が明白に現れるようになったと位置付けるほうが的確なように思われる。むしろトランプ政権の動きはそうしたコンテクストに便乗したものと見たほうがよい。本稿では、連邦政府の公務員に関する大統領の人事権をめぐる合衆国最高裁の判例動向を補助線として引いてみよう。

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