(第20回)生殖補助医療と子の先天異常:自然妊娠より高い障害をもつ確率

ヒトの性の生物学(麻生一枝)| 2025.04.15
LGBTQ,少子高齢化,男女共同参画など,議論の的となっている社会テーマの多くは,ヒトの性と関係しています.「自分がどのようにして (how),自分になったのか」を知ることは,性的マイノリティの自己の確立に大きく影響し,また,年齢に伴う卵子や精子の老化は,私たちがどのようにキャリア形成とプライベートな生活 (結婚や家庭をもつなど) を両立していくかを考える上で,避けては通れない生物学的事実です.しかし現実には,様々な議論が,生物学抜きで,あるいは生物学の誤った解釈の下におこなわれており,責任ある立場の人々の誤った言説もあとを絶ちません.
このシリーズでは,私たちの人生に密接に関係する「ヒトの性に関する生物学的知見」を紹介していきます.

(毎月中旬更新予定)

体外で受精させた卵子を子宮に移植する「体外受精・胚移植」や、卵子に精子を直接注入することで受精させ、それを子宮に移植する「顕微授精・胚移植」は、今や標準的な生殖補助医療になりつつあるようだ。しかし、これらは本当に安全なのだろうか。生まれてくる子に、何の悪影響もないのだろうか。

どの医療機関でも、生殖補助医療の実施に先立って、患者は、卵採取のためのホルモン投与や採卵処置が母体に与える悪影響、高齢での妊娠・出産が母体に与える悪影響、そして、これら生殖補助医療が妊娠や出産を保証するものでないこと、などを告げられることだろう。しかし、生まれくる子が障害をもつ可能性については、どうなのだろう。おそらく、あまり告げられないのではないだろうか。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師. お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋生物学修士,ハワイ大学動物学Ph.D. (研究テーマは魚類の性分化・性転換).「健全な科学研究における統計学や実験デザインの重要性」「ジェンダー研究における生物学の重要性」という 2 つのテーマで活動してきている.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』(SBクリエイティブ),『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社),『データを疑う力』(東京図書出版) など.