(第28回)執行文の数通付与・再度付与にご用心。

民事弁護スキルアップ講座(中村真)| 2024.04.22
時代はいまや平成から令和に変わりました。価値観や社会規範の多様化とともに法律家の活躍の場も益々広がりを見せています。その一方で、法律家に求められる役割や業務の外縁が曖昧になってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて法律家の本来の立ち位置に目を向け、民事弁護活動のスキルアップを図りたい。本コラムは、バランス感覚を研ぎ澄ませながら、民事弁護業務のさまざまなトピックについて肩の力を抜いて書き連ねる新時代の企画です。

(毎月中旬更新予定)

前回は、民事訴訟における文書について、原本、正本、謄本、抄本といった形式的・概念的な違いについて説明しました。まず、文書には唯一無二の原本があり、正本も抄本も含めた「謄本」(原本の内容を同一文字符号により全部写したもの)という大きなカテゴリが存在するのでした。そのうち、「正本」は謄本の中でも「特に権限ある者が原本に基づいて作成し、外部においては原本と同一の効力を持って通用するもの」という一段高い地位を与えられていました。

今回は、この文書の整理を踏まえた上で、執行文の数通付与・再度付与という、実務家としてきちんと押さえておくべき手続について触れてみたいと思います。

1 数通付与・再度付与が問題となる場面

原告代理人であるあなたは、被告に対する1000万円の損害賠償請求権を認容する判決を得ました。そしてあなたは、判決正本に執行文の付与を受けて被告の預金A(想定残高250万円)を差し押さえるべく強制執行手続を行いました。

ところが、調べたところ、被告には預金B(想定残高300万円)もあることがわかりました。あなたとしては、預金Aに加えて、預金Bについても是非とも差押手続を取りたいと考えるはずです。

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中村真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。2021(令和3)年9月、母校の大学院にて博士(法学)の学位を取得(研究テーマ「所得税確定方式の近代及び現代的意義についての一考察-我が国及び豪・英の申告納税制度導入経緯を中心として-」)。現在、弁護士業務のほか、神戸大学大学院法学研究科にて教授(法曹実務)として教壇に立つ身である。