合理的な集団行動の罠

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2021.09.27
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Harel, M., Mossel, E., Strack, P. and Tamuz, O.(2021)”Rational Groupthink,” Quarterly Journal of Economics, 136(1): 621-668.

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宮下将紀

はじめに

人々はすでに自分が持っている情報に加えて、他者が発信する情報を参考にしながら意思決定を行う。たとえば、新しい電化製品を選ぶ際に過去の購入者による商品レビューを参考にする人は多いだろう。また、多くの投資家は他の投資家たちが取ったポジションや、それを部分的に反映する価格等の公開情報をもとに売買を行う。ワクチン接種に迷っている誰かの背中を押してくれるのも、結局は周りの人々の接種行動といった他者の声かもしれない。この他にも、選挙での投票先やキャリア選択、はたまたファッションの流行など、われわれが他者の知恵を活用しながら行う意思決定の例は枚挙に暇がない。直感的には、多くの人の集合知は各人のより良い意思決定に寄与すると思えるかもしれないが、集団による行動が思わぬ帰結をもたらしうるということが「社会的学習 (social learning)」の研究で明らかにされてきた。理解の伴となるのは合理的な人々によって形成される非合理的な集団行動だ。本稿では、社会的学習理論の伝統的な結果を示したうえで、新たな研究成果である Harel et al.(2021) について解説する。

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