(第32回)強盗殺人事件につき、多くの違法捜査と違法な公判活動を重ねた結果、無実の若者2人に無期懲役刑を確定させた─布川事件(2)

捜査官! その行為は違法です。(木谷明)| 2021.03.15
なぜ誤った裁判はなくならないのか――。
警察官、検察官の証拠隠しや捏造、嘘によって、そしてそれを見抜かなかった裁判所によって、無実の人が処罰されてしまった数々の冤罪事件が存在します。
現役時代、30件以上の無罪判決を確定させた元刑事裁判官・木谷明氏が、実際に起こった事件から、刑事裁判の闇を炙り出します。

(毎月中旬更新予定)

前回に続き、違法捜査や違法な公判活動などについて紹介し、引き続き弁護人の活動と裁判所の問題点について論じる。

3 違法捜査等の内容はどのようなものであったか(続)

(4) 従前の自白と食い違う自白をさせて調書に書き込むに当たり、「後の裁判で争うことを計算し、敢えて矛盾する虚偽の供述をした」などと、本人がしてもいない虚偽の説明を記載した

2人の自白調書は、矛盾・変転が甚だしく、趣旨一貫しないばかりか、現場の状況とも符合しない不合理なものであった。そういう自白調書は、そのこと自体で信用性が乏しいと争われることが予想される。そのため取調官は、自白調書中に上記のように「後の裁判で争うことを計算し、敢えて矛盾する虚偽の供述をした」などと、常識上およそ考えられない不合理な説明を書き込んで自白の合理化を図るなど、手の込んだ細工をしたのである。

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木谷 明(きたに・あきら 弁護士)
1937年生まれ。1963年に判事補任官。最高裁判所調査官、浦和地裁部総括判事などを経て、2000年5月に東京高裁部総括判事を最後に退官。2012年より弁護士。
著書に、『刑事裁判の心―事実認定適正化の方策』(新版、法律文化社、2004年)、『事実認定の適正化―続・刑事裁判の心』(法律文化社、2005年)、『刑事裁判のいのち』(法律文化社、2013年)、『「無罪」を見抜く―裁判官・木谷明の生き方』(岩波書店、2013年)など。
週刊モーニングで連載された「イチケイのカラス」(画/浅見理都 取材協力・法律監修 櫻井光政(桜丘法律事務所)、片田真志(古川・片田総合法律事務所))の裁判長は木谷氏をモデルとしている。