『こどもの眼・おとなの頭 — 数理にあそぶ』(著:時枝 正)
まえがき
ちいさい子に玩具をプレゼントしたのに,大人がお目当てだった玩具はそっちのけ,包装紙や空箱でばかりあそんでいる — そんな場面,目にしたことおありですよね?
たいていの人にとって,数学とは,あらゆる概念が定義され,推論が完全な形式のうちに進み,答が一つに決まる試験科目・学問分野である.それは数学の「花」を崇める立場といえる.でもね,考えてみましょう.数学だって,神ならぬいつかどこかの誰かさんが今の形に仕上げたもの.自然の中から,まだ数学か何か分からぬナマの現象を拾って来て,育まねば,花とて咲かない.花の前に,芽からのアプローチがいのちなのです.お手におもちの本は,数理の「芽」を日常生活から蒐め,みなさんにご紹介する.芽は,「こんなところに数学があるの? 」と驚いてもらうほど多様に拾い,「ここまで世界が広がるの? 」と夢見てもらうほど自由に育みたい.
読み方は十人十色. 1) ふしぎな現象に遭ったとき,いかに数理的にモデルして納得まで持って行くか,の見本として. 2) 談話会,お茶の時間のネタの宝庫として.数学の先生は,中高でも大学でも院でも,教える題材をうるおすちょっといい話をここで仕入れられよう. 3) 数学・物理の文化を見物するツアーとして.私自身はふつつかなれど,現代最高峰の学者たちと親しくつきあっているおかげで,本書はしばしに,彼ら彼女らの問題意識,ユーモアのセンスが垣間見られよう.章は順不同.読みやすいところからつままれたい.たださし絵を楽しむのも結構.
ことのおこりは,月刊誌『数学セミナー』 2013 年 4 月∼2015 年 3 月の連載全 24回.ひと昔経ち単行本化のはこびとなった.また,著者を識れば文章が読みやすくなろうとの配慮から,自伝エッセイ「はるいちばん」を付録に収めた (雑誌『数学のたのしみ』が 42 人の数学者に自伝を書かせたシリーズ「数学まなびはじめ」のしんがり,同誌最終号 [2008] 初出) .
その昔私に日本語で表現する場を恵んだ亀井哲治郎氏,連載の面倒をみた入江孝成氏,単行本を作った飯野玲氏に感謝します.上梓はひとえに各位のおかげなのですから,もしこの本について苦情のある向きは,直接これらの紳士に申し出て下さいな.
一説に,おもちゃの語源は「お持ち」 + 「や」だという.それは,子が親に話しかけられる初めての言葉の一つであり,世代から世代へ,文化と愛情を受け渡してゆく象徴でもある.本書は私の記録,次世代へのプレゼントだけれど,お目当てなんてどうでもよろしい.気軽に,好みにまかせ,数理にあそびましょう.
時枝 正
目次
- 第1回 オビ・クリップ・ワゴムの手品
- 第2回 せりあうべき
- 第3回 確率のグー・チョキ・パー
- 第4回 ころがりつつ
- 第5回 ティーカップの音
- 第6回 リラックスして問題を解く
- 第7回 光より速く
- 第8回 絵で追う近似
- 第9回 水の皮・朝夕の水
- 第10回 無理な数のこしらえかた
- 第11回 重力をけしたりつけたりそらせたり
- 第12回 帯をねじって裂く
- 第13回 回転盤をよぎるボウリング
- 第14回 チーズの切り分け
- 第15回 こどもっぽい量子力学
- 第16回 物理を数学へ応用する
- 第17回 物理をアルゴリズムへ応用する
- 第18回 鎖の曲芸
- 第19回 進化のパズル
- 第20回 紙一枚からの工学
- 第21回 不動点で遊ぶ
- 第22回 それでも帰ってくる軌道
- 第23回 ちいさい数理みつけた
- 第24回 このゆびとまれ
- 付録 はるいちばん
書誌情報など
- こどもの眼・おとなの頭 — 数理にあそぶ
- 著:時枝 正
- 紙の書籍
- 定価:税込 2200 円(本体価格 2000 円)
- 発刊年月:2026 年 9 月
- ISBN:978-4-535-78787-2
- 判型:B5判
- ページ数:112 ページ
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