「回復」という毒 — 支援に埋め込まれた構造的暴力(著:風間暁)

一冊散策| 2026.09.02
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はじめに

診察室という舞台装置の中で、私たちは、「患者」という役割を与えられる。

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期待に応じるように患者然となり、「回復」という大団円に向けた脚本に則って、白衣を着た権威の前に座る。口火を切る医師の台詞は決まってこうだ。「どうですか、その後、お変わりないですか」。

私たちは、とりあえずの無難な台詞を答えては、病名や症状といったラベルをペタペタと貼られていく。たいていは不十分な説明を受け、投薬などの方針を決められたのち、次の診察の予約をとって、なけなしの金を払う。「こんな治療になんの意味があるんですか」「いつになったら楽になれるんですか」「どうしてその説明で十分だと思ったんですか」といった本音を押し殺し、“お医者様”の言うことだから正しいのだと思い込もうとして、「正しい患者役」を降ろされないよう、役割を演じる努力を続ける。

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幼少期、家庭内で母からの虐待を受けた末に薬物依存症となった私に言わせれば、診察室における医師と患者の関係性は、虐待家庭における親子と同質の危険を孕んでいる。どちらも閉鎖的な密室に、権威勾配のある二者が押し込められ、場を支配する権力者(医師、あるいは親)によって、レールが敷かれていく構造となっているからだ。

医師が自身の権威性に無自覚なまま患者に接すればどうなるか。治療の場であるはずの診察室において、虐待が起こっていた家庭内の構造を再現し、患者にトラウマの再演を押しつけることになる。いや、自分には権威性などないと弁明する医師もいるかもしれない。しかし、「親」同様、「医師」という立場には、権威性が無条件で付随してくるものだ。そして権威性、あるいは権力は、立場に無自覚である人ほど、無意識に振りかざしてしまうものでもある。

もちろん、医師が日々の診察に追われ、患者を人としてではなく数として見ざるをえない現状があることは想像できる。しかし、だからといって患者の主体性を奪い、健康になることがゴールだという前提を勝手に決めつけてしまっては、真綿で首を絞めるような、「あなたのためを思って」行なわれる虐待と変わらない傷を、患者に与えてしまうのではないだろうか。

実際、私はそうした構造的暴力により、受傷し続けてきた。そしていま、子ども・若者を支える側に立ち、彼ら・彼女らもまた、医療や支援の中でこそ傷ついていることを目の当たりにしている。もしかすると、医療や支援の構造そのものが、患者のトラウマを維持、あるいは強化させている側面もあるのではないだろうか。私は、この一抹の疑念を、決して無視してはいけない社会課題のひとつと考えるに至った。

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前置きしておくが、私は無学である。義務教育すらろくに受けてきておらず、人生通して満点を取ったのは、ACEスコア(小児期の逆境体験の数を示す指標)だけ。そのため、エビデンスがどうとか、データがどうとか言われても、私には、アカデミックな調査を行なったり、研究したりする技術や心得はない。

ただし私には、ストリートで培った経験と、まるで生物のように蠢き続ける、流動的で生きた知恵がある。他者がいくら勉強しても決して得ることのできない唯一無二の知性を、痛みとともに、この身に宿してきた。私が世界に向けて提供できるのは、この、私という存在、そのものである。私は「データの提供者」ではなく、「知をつくる主」なのだ。

座学で重ねられた、スマートで論理的な言説しか重要視されない世の中で、私は、一部の権威者たちから小馬鹿にされる覚悟で、固有のストリート・ウィズダムを誇り、この一冊を書く。主な参考文献は、開示請求した自分のカルテ、計 787 枚である。

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これを「厄介な患者」のパーソナルな病理だと冷笑するか、深刻なユーザーフィードバックと受け止めるか。

人の内面にひそむ傲慢さを暴く、リトマス試験紙のような本になれば、命を削った甲斐もあるというものだ。

目次

はじめに
序章 記憶とカルテ
第 1 章 「厄介な患者」
第 2 章 薬物依存症
第 3 章 受け継がれる暴力
第 4 章 「支援」を問いなおす
第 5 章 向き合い、待つということ
終章 「回復」を、当事者の手に

書誌情報

関連情報

SONIC REMEDY 〜風間暁『「回復」という毒』 出版記念パーティー(TALK & DJ)〜

  • 日時:2026 年 9 月 23 日(水)14:00 ~ 17:00
  • 会場:Club METRO
    〒606-8396 京都市左京区川端丸太町下ル下堤町 82 恵美須ビル B1F(京阪神宮丸太町駅 2 番出口)
  • 参加費:3,000 円+ 1 DRINK(事前予約制)

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