『ストレスとトラウマのためのセルフケア新習慣 — コミュニティ・レジリエンシー・モデル入門』(著:服部信子)

一冊散策| 2026.07.17
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

はじめに——セルフケアの新習慣

「心の弱さ」ではなく、神経の働き

「カッとなって、つい言ってしまった」
「あせって行動したら、失敗してしまった」
「落ち込んで、何もできなくなってしまった」
——そんなこと、ありませんか?

頭ではわかっていても、うまくできない時。

それは、あなたの心が弱いからではありません。

神経という体の仕組みの、バランスが崩れてしまっただけなのです。

「大丈夫」の新しい習慣

コレモ(コミュニティ・レジリエンシー・モデル)は、ストレスやトラウマでゆさぶられた神経のバランスを、やさしく整えるセルフケアです。

難しい知識も、特別な道具もいりません。

ちょっとした時間に、日常の中でできるシンプルな方法です。

「体のサイン」に耳をすます

コレモでは、「今、どんな気持ちか」より、「今、体はどんな様子か」に注目します。

《例》
・テストが不安 → 肩にぎゅっと力が入っている、息が浅い
・やる気が出ない → 体が重く感じる
・幸せな気持ち → 体はゆるんで、呼吸が深い

これらは心の変化と同時に起こる「体のサイン」です。神経などの働きにより起こる、ごく自然な体の反応で、良い・悪いはありません。

体のサインは見過ごしがちです。けれども、それに気づくと、心と体のバランスを整える道が生まれます。

コレモは「選択肢」を生む

コレモでは、まず体のサインに気づく方法を学びます。すると、怒りや悲しみなど、ひとつの感情しか感じていない時でも、体の中にはたくさんの「感覚」があると気づけます。

コレモではその感覚を、「心地いい」のか、「心地わるい」のか、「なんともない」のかという、「体の感覚」として感じ分けます。良し悪しという「頭の判断基準」では判断しません。

体の感覚の快・不快を感じ分けると、「どの感覚と一緒にいたいかな」という選択肢が生まれます。それは、嫌な感覚を感じ続けなくてもいい、という選択肢です。

そして、一緒にいたい感覚と一緒にいる具体的な方法がコレモです。

体が変わると、他も変わる

体・感情・思考は、つながっていて、おたがいに影響を与え合っています。そのうちのどれかひとつに変化があると、他にも変化が起きます(図 1)。

図 1 コレモの仕組み

たとえば、缶コーヒーの温かさという「心地いい感覚」に意識をとどめると、体が少しゆるむ。すると、気持ちや考え方もやわらぐ、ということってありますよね。他にも、すごく頭にきたことがあったけれど、体がリラックスしてから振り返ったら、結構どうでもよくなった、なんていうのも、感情と体と思考の相互作用の関係をあらわしている、身近な例です。

コレモは、そんな相互関係の中でも体の感覚を入口に、全体のバランスを整えていきます。

こんな時、新習慣の出番です

  • なぜか気持ちが落ち着かない
  • 不安やイライラを感じる
  • 落ち込んで元気がない
  • つらい体験が思い出されてしまう

コレモは、いつでも、どこでも、誰でもできる

・まとまった時間はいりません。2 ~ 3 分で効果を感じられます。
・通勤中や会議中でも、人に気づかれずにできます。
・大人も子どもも、過去の経験に関係なく使えます。

カンタンにできるコレモの専門的な背景

コレモは、一見シンプルですが、心理学・神経科学・トラウマ治療などの専門知識に基づいています。

専門家が行うトラウマ治療の中から、誰もが安全に使える部分を取り出し、やさしい言葉でまとめたものです。毎日のストレスケアにも、トラウマの影響をやわらげるためにも役立ちます。

コレモのはじまりと今

コレモは、2006 年にアメリカの心理療法士エレイン・ミラー – カラス先生らにより、「専門家がいなくても、トラウマ後のケアを自分たちでできるように」と開発されました。

今では心理療法の枠を超え、福祉、医療、教育、被災者支援、地域活動など世界中で広く使われています。また、研究でも効果が報告されています1)

この本と原作について

この本の内容は、エレイン先生が書いた本、Building Resilience to Trauma の第 1 版2)と第 2 版3)、そして公式講習会資料4)をもとにしています。その中から、コレモのすべてのスキルと、スキルを効果的に使うための体の知識を中心にまとめました。

また、コレモは学ぶ方の文化に合わせることを大切にしています。その姿勢をうけつぎ、日本の方にわかりやすいよう、説明やワークを著者が加えました。さらに理解を深めるために、原書にはない内容も含めました。

この本の原稿をエレイン先生に読んでいただいたところ、「変えるべき点がないどころか、コレモに忠実であり、すばらしい内容」と太鼓判をいただきました。先生からの長年のご指導とサポートに深い感謝の意をここに示します。

著者について

はじめまして、服部信子です。私はアメリカで心理療法士として、トラウマ心理治療を長年提供しています。心理療法士とは日本の精神科医と臨床心理士の中間的な資格です。

コレモとの出会いは、東日本大震災による多くの被災者のために、たった一人の心理職の私に何ができるのだろうと戸惑っていた時でした。そして、コレモはひとつの具体的な答えをくれました。以来エレイン先生のもとで学び続け、今では先生が設立したトラウマ・リソース研究所の准上級講師も務めています。

「誰かのために」と思って学んだコレモですが、実は一人の人間としての私に一番役に立ちました。そして、人にも、自分にもやさしくなりました。私にとってのコレモは、空気のような存在です。いつでも一緒にいてくれ、時々深呼吸でそのありがたさを実感させてくれるかのように、とても頼れる存在です。そんなコレモが、あなたにも届くことを願ってこの本を書きました。

この本が、あなたの体のサインに耳をすますきっかけとなりますように。あなたにも必ずある「大丈夫」を大きく育てる力となりますように。そして、あなたの心と体のバランスを整える新しい習慣となりますように。

エレイン先生と、世界中のコレモの仲間があなたを応援しています。では、一緒にはじめましょう。

目次

はじめに —— セルフケアの新習慣

「心の弱さ」ではなく、神経の働き
「大丈夫」の新しい習慣
「体のサイン」に耳をすます
コレモは「選択肢」を生む
体が変わると、他も変わる
こんな時、新習慣の出番です
コレモは、いつでも、どこでも、誰でもできる
カンタンにできるコレモの専門的な背景
コレモのはじまりと今
この本と原作について
著者について
日本のみなさまへ(エレイン・ミラー – カラス)

第 1 部 体の知識

第 1 章 コレモとレジリエンスマップ

コレモとは
気持ちの浮き沈み
気持ちの浮き沈みと神経
レジリエンスマップ
レジリエンスの 3 つのゾーン
大丈夫ゾーン
ハイゾーン
ローゾーン
神経のいろいろなパターン
スタック —— ゾーンへのはまり込み
乱高下
大丈夫ゾーンの幅の変化
大丈夫ゾーンという目的地
チョイスポイント —— 選べる学び

第 2 章 レジリエンス —— あなたにも必ずある心の自然治癒力

レジリエンスは誰もが持っています
コレモのレジリエンス

第 3 章 体の仕組み —— アップダウンは心の弱さのせいじゃない

「心の弱さ」じゃなかった! 体が勝手に反応するわけ
脳の働き —— 理性脳と生存脳
理性脳
理性脳の特徴
理性脳の弱み
生存脳
生存脳の特徴
通常モードから緊急モードへ
ストレス反応 —— 体を守る 4 つの手段
誤解されやすい反応たち
自律神経 —— 体のナビゲーター
自律神経=活動神経と休息神経
自律神経と体の変化
活動神経 —— ハイゾーンかな?
休息神経 —— ローゾーンかな?
まとめ —— 仕組みがわかると選択肢が生まれる

第 4 章 「今ここ」の安全に気づく —— 回復へのスーパーパワー

生存脳は「言葉」を理解しない
「感覚」で安全を知らせる
こんな経験はありませんか?
不快感の他には何がある?

第 5 章 トラウマと回復 —— 知ることからはじまるトラウマケア

その傷は「あなたのせい」じゃない
ストレスとトラウマの違い
トラウマとは何か?
トラウマの種類
トラウマ反応 —— 「非常事態」に対する「正常な反応」
2 つの記憶 —— 言葉と感覚
トラウマと潜在記憶
記憶のくす玉
くす玉が割れるきっかけ
くす玉が割れた時にできること
トラウマのあとに
まとめ —— あなたのせいじゃない
「今ここ」から、回復の力を

第 2 部 コレモのスキル

第 6 章 コレモのスキル:全体像 —— 大丈夫ゾーンを広げる 6 つのスキル

いよいよ実践編へ
スキルは「体を入口とする道具」
6 つのスキルの全体像
共通する 3 つの特徴
まとめ

第 7 章 スキル 1:体に気づく —— 感覚は大丈夫ゾーンへのナビゲーター

最初のスキルは「体に気づく」
体に気づくメリット?
感覚とは何をさす?
「ちゃんと気づけているかな?」と思ったら
体に気づくワーク 1:ステップガイド
「なんともない」の力
リリースサイン(神経のゆるみ)
あなたも、すでに使っている力
まとめ —— 体はあなたのナビゲーション

第 8 章 スキル 2 〜 4:宝、接点、動き —— 身近な「大丈夫」に気づく

スキル 2:宝
宝のワーク 1:てもとにある宝
宝のワーク 2:心の中の宝を見つけよう
宝のワーク 3:助けになった存在
覚える工夫
スキル 3:接点
接点のワーク
いろいろな接点
スキル 4:動き
いろいろな「動き」
普遍的な動き
動きのワーク:試して見つける
動きに気づくヒント
見つからなくても大丈夫

第 9 章 スキル 5・6:リセット、ましにとどまる —— 「つらい」を積極的にケア

スキル 5:リセットスキル
リセットスキル:ワーク
あなたに合うものを見つけよう
インからアウト
理性脳を積極的に働かせる
スキル 6:ましにとどまる —— つらい時こそ、「ましな感覚」を選び、とどまる
「まし」は頼りになる
ましに気づく 2 つのルート
「今ここ」のましに気づく
ましにとどまる:ワーク
コレモフローチャート
とどまることの大切さ
コレモ流「大丈夫のタネ」の育て方

第 10 章 効果をあげるコレモの使い方 —— 新しい習慣のために

コレモを活かす 3 つの心構え
「知っている」から「使える」へ
生活の中で使う工夫

第 11 章 感覚に気づくワーク集 —— ゆっくり進めば大丈夫

ワーク 1:感覚に言葉を与えてみよう
ワーク 2:見てわかることを言葉であらわそう
ワーク 3:ものを思い出しながら、感覚を言葉であらわそう
ワーク 4:体の感覚を言葉であらわそう

第 12 章 支援するあなたへ —— まず自分から、やさしい実践を

支援者も、まず自分にコレモを使う
支援の心構え
トラウマインフォームドケアとコレモの重なり
レジリエンスインフォームドケア
よくある質問(Q & A)
支援を頑張るあなたへ

おわりに
参考文献

書誌情報

関連情報

脚注   [ + ]

1. Trauma Resource Institute. Research
2. Miller-Karas, E. (2015). Building resilience to trauma: The community resiliency model. Routledge.
3. Miller-Karas, E. (2023). Building resilience to trauma: The trauma and community resiliency models (2nd ed.).Routledge.
4. Trauma Resource Institute (2020). Community Resiliency Model (CRM). Teacher Training PowerPoint Slide Guide.

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