『児童発達支援・放課後等デイサービスのための発達障害支援の基本』(著:内山登紀夫)

一冊散策| 2025.12.05
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

まえがき

本書は、著者が CEO を務めるよこはま発達グループが主催した、発達障害のある子どもの支援者と保護者を対象にした 12 回の連続講義がもとになっています。このセミナーは双方向性を確保するために、受講者から質問を募集し、それに対して著者がリモートで答える形式を採用しました。質問に答える中で、受講者が疑問をもちやすい点を知ることができたのは有益でした。

12 回もの連続講義を行ったのは、発達障害を体系立てて理解する必要があると常日頃から感じていたからでもあります。発達障害についてのセミナーや講義を学校や専門家団体、行政機関などから依頼されることが多いですが、多くの場合、1 時間や半日での依頼です。そのわずかな時間で、発達障害の概念から子どもや親の支援について説明するのは困難です。特に、対象が児童発達支援や放課後等デイサービス、保育士や教師など、支援や教育を業務としている専門職の場合は、スキルや知識も一定の水準が要求されます。しかし、福祉や教育の業界では、スキルや知識よりも「愛情」や「熱意」が重視される傾向があるように感じます。著者は発達障害の支援者には発達障害に関する一定の知識とスキルが絶対に必要だと考えています。発達障害は一見すると障害があるように見えないことも多く、知識やスキルがない支援者が「愛情と熱意」だけを武器にサポートすることは、大きなリスクを伴います。

もう一点の理由は、発達障害支援の目的が「普通に近づける」ことや「集団適応」に重点が置かれがちなことへの違和感です。著者は児童精神科医として 40 年近く臨床活動を行ってきました。医師になりたての頃に診ていた 3 歳の子どもは、今や立派な中年です。常日頃の臨床で感じていたことは、療育や教育において、普通に近づけるための「支援」は、発達障害のある子どもにとって「試練」になっているということです。

日本でも最近になってようやくニューロダイバーシティという言葉が使われるようになり、多様性を認める雰囲気が出てきたことは歓迎すべきことですが、子どもの場合、現在でも「みんなで一緒に頑張る」といった、多様性を認める方向とは真逆の方針で試練を受けている子によく出会います。支援者も普通に近づけるために一生懸命で、うまくいかずに疲弊することも珍しくありません。ニューロダイバーシティへの誤解も多く、「多様なのだから支援は要らない」と考えている人もいます。

発達障害は多様性の一部ですが、少数派であることは間違いなく、多数派のために作られた社会では、子どもの頃から多くの困難を経験します。子どもの場合、その困難がかんしゃくや多動などの「不適切な行動」として表現されることが多いですが、変更が必要なのは、子どもの行動ではなく、支援のあり方です。そのような視点で子どもの発達障害の支援について書く必要に駆られたことが、本書を執筆する動機となりました。

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