食糧と法—令和の米騒動と食料安全保障(長谷河亜希子)
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」97巻11号(2025年10月号)に掲載されているものです。◆
1 はじめに―この2年間の大凶作と不作
法律時報の編集部の方から、「コメに限らず、食料の安全保障をつかさどるための基本的な仕組みと、危機が生じた場合にはそれに対して法律がどのようなことができるのか」について論じてほしいとの依頼を受けたが、経済法を専門とする私の研究対象は、フランチャイズ問題やフリーランス問題であり、食料安全保障は完全に専門外である。
しかし、「令和の米騒動」の最中、私のように生産手段を持たない者こそ、食料安全保障について考えてみるべきだと思い直し、執筆をお引き受けした。
私が暮らしている青森県のカロリーベース自給率(以後、単に自給率とする)は116%1)(全国平均38%)である上に、津軽平野は米どころで、青森県産米がスーパーの棚から消えたことはなく、米不足を報じるニュースに、「ホント?」と首をかしげていたのだが、本当に米不足だったらしい。
政府は毎年、需要見込みを若干上回る量の米の生産量の目安を示し、各県の農業再生協議会などが各県の生産量の目安を提示している。ただし、主食用米作付面積の減少等により、とりわけ西日本では、実際の生産量がその目安に届かない県が少なくない2)。なお、米は価格弾力性が非常に低く、少々の不足でも高騰しやすい。
2023年は米の生産面積を減らしすぎた上に、猛暑による10年に一度の大凶作(作況指数92)で、最大56万トン不足していたらしい。これは政府備蓄米放出の目安(農水省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」)に該当する。2024年産米は増産傾向にあったが、これまた不作で生産量は679万トン。需要が711万トンに達しため、最大32万トンの不足となった(日本農業新聞2025・8・8)。ただし、1993年の冷夏による不作(作況指数74)で200万トン以上の米が不足した時ほどではなく、100万トンの政府備蓄米(日本国民の米の消費量の1.5か月分)で対処可能な範囲であった。しかし、政府が作況を見誤って備蓄米放出が遅れ、米価が高騰したわけである。
2025年の収穫量見込みは719万トンである。不作とならなければ需要を上回るはずだが、例年のように政府備蓄米20万トンを購入できるかどうかは怪しい。なお、政府備蓄米の在庫見込は29.5万トンとなっている(日本農業新聞2025・8・21)。
脚注
| 1. | ↑ | 以後、直近の自給率は全て2022年度概算。農水省「令和5年度 食料自給率・食料自給力指標について」(2025・8)より引用。 |
| 2. | ↑ | 小川真如「2024年夏におけるコメの品薄の要因と課題—『令和の米騒動』と呼ばれた事象をめぐる総合的研究」農業研究37号(2024)407頁。 |




