(第15回)いじコミこみこそわが人生

プロ精神科医あるあるノート(兼本浩祐)| 2025.04.14
外来のバックヤード、あるいは飲み会などフォーマルでない場で、臨床のできる精神科医と話していると、ある共通した認識を備えていると感じることがあります。こうした「プロの精神科医」ならではの「あるある」、言い換えれば教科書には載らないような暗黙知(あるいは逆に認識フレームの罠という場合もあるかもしれません)を臨床風景からあぶり出し、スケッチしていくつもりです。

(毎月中旬更新予定)

「いじコミ」という熟した言葉があるわけではありません。わたしが『普通という異常』という本の中で、定型発達と呼ばれる人たちの定型発達性が極端になった場合の特性を記述するために思いついた表現で「いじわるコミュニケーション」の略語です。女の子はおおよそ小学校5年までにこの、いじコミによる暗黙のコミュニケーションに熟達し、いじわるコミュニティを完成させます。非定型発達の女の子の少なからぬ人たちがこのいじわるコミュニティから弾き飛ばされ、小学校高学年から高校生にかけて、そこでの生き残りに苦しむことになります。柴崎友香さんの小説『ビリジアン』および『星よりひそかに』ではそこいらあたりの事情が非常に鮮明に書かれています。

しかし、定型発達の人たちも好きでいじコミをしているわけではありません。いじコミこそ生きること、おそらくそこにこそ、定型発達の人が生きる非常に大きな支えがあることを精神科医は知っておいて悪くはないように思います。

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兼本浩祐(かねもと・こうすけ)
中部PNESリサーチセンター所長。愛知医科大学精神神経科前教授。京都大学医学部卒業。専門は精神病理学、臨床てんかん学。『てんかん学ハンドブック』第4版、『精神科医はそのときどう考えるか』(共に医学書院)、『普通という異常』(講談社現代新書)など著書多数。