16歳未満13歳以上の「性的自己決定権」(松宮孝明)

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月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」97巻2号(2025年2月号)に掲載されているものです。◆
1 犯罪認知件数の減少と検挙の重点
先日、ある弁護士から、近年の警察は軽微で捜査が容易な事件しか立件しないという嘆きを聞いた。曰く、特殊詐欺事件に巻き込まれた実質「被害者」が、逆に犯罪者として立件され処罰されているというのである。
具体的には、いずれも闇金業者を名乗る人物から融資の申し込みを受けた人物が、融資金の振込みと返済のために、自己名義の銀行キャッシュカードまたは郵貯キャッシュカードをその人物に送付し、かつ、その暗証番号を教えたという事件である。その闇金業者(実は特殊詐欺犯)はその口座を特殊詐欺の振込口座として利用するのであるが、その人物は捕まらないどころか、キャッシュカードを騙し取られた人物が「犯罪による収益の移転防止に関する法律」28条2項1)に違反するとして罰金の略式命令を受けたのである。
被融資者が自己名義のキャッシュカードを送付した理由は、闇金業者が被融資者のキャッシュカードを使えば、闇金業者からの融資金の送付および闇金業者への利息や返済の送金に手数料がかからなくなると言われたからである。このようにしてまんまと騙し取られたキャッシュカードが、特殊詐欺の振込口座としてその口座を利用するために用いられ、これに気づいた金融機関がその口座を凍結し、それを知らずにATMから通帳で融資金を払い出そうとした被融資者が取引不能を理由に金融機関に苦情を申し立てることで捕まるという悲劇が生じる。というのも、その際、被融資者は、融資を受けるためにキャッシュカードを送付するという行為が犯罪になるとは知らず、むしろ犯罪被害の事情聴取と思い、黙秘もせずに捜査機関に供述しているからである。
このようにして、実質的には「被害者」である人物が刑事訴追を受け、かつ、捜査機関はその立証のために細かな捜査活動を強いられている。しかし、捜査の難しい特殊詐欺犯の仕掛け人に対しては、ほとんど捜査をしないと、くだんの弁護士は嘆くのである。
脚注
1. | ↑ | 同項は、相手方が自分になりすまして金融機関のATMサービスを利用する目的があることを知って、「有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者」を「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(同条1項)ことにしている。「有償で」というのは、融資金が受けられるという動機を指しているようである。 |