(第8回)解決できない事態と折り合う

みんなのストレス波乗り術(竹田伸也)| 2021.04.21
ストレスをなくそうとするのではなく、しなやかに対処する。海に浮かぶ発泡スチロールの船のように、大波にあらがうのではなく、波に乗って飄々とやりすごす。“波乗り”こそ、ストレスとつきあう一番の方法です。“みんな”のこころを楽にするストレスの波乗り術を、臨床心理学を用いてやさしくお伝えします。

(毎月下旬更新予定)

ジムのロッカールームにて

ずいぶん前の話になります。僕がまだ、「頑張って体力つけてやる! 腹ひっこめてやる!!」という野心に燃えていた頃の話です。もうほんと、遠い昔の話です……。

その頃、僕はジムに通っていました。そのジムでよく見かける利用者がいました。彼は全身是筋肉という体型で、当時も今も変わらず全身是贅肉の僕には憧れの存在でした。

あるとき、その彼がロッカールームで、立ち止まって一生懸命何かをしていました。後ろから見ると、体が小刻みに揺れています。

「体調でも悪いのだろうか」と心配になった僕は、そっと正面にまわって彼の様子を眺めました。すると、彼は胸元に生えた短い毛を、指先を使ってなんとか引き抜こうとしていたのです。小刻みに揺れていたのは、指先で引き抜こうとしたときの反動だったようです。ところが、何度チャレンジしても、その短い胸毛はうまく引き抜けずにいるようでした。

僕はこの光景を見て、とても感動しました。「こんなに上手に筋肉をつけられる人でも、指先をマッチョにするのは無理なんだ」と。

結局抜けたかどうかわからずじまいなのですが、彼はその短い毛を抜こうと、かなりの時間、格闘していました。

さて、今回のストレス波乗り術は、このエピソードにヒントがあります。なんだと思いますか?

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竹田伸也(たけだ・しんや)
鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻教授。専門は、臨床心理学、認知行動療法。「生きづらさを抱えた人が生まれてきてよかったと思える社会の実現」をコンパスとして、その方向にそって自分にできることを進めている。最近は、自分のもつ弱さをかわいく思える技の開発に励んでいる。著書に、『マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック』(遠見書房)、『対人援助職に効くストレスマネジメント』(中央法規出版)など。