『布コラージュ法の世界:回復への途を紡ぐ物語』(著:藤井智美)

一冊散策| 2018.11.26
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

刊行によせて

本書が刊行されるにあたって、ひとこと欲しいと書肆からの要請があった。とても嬉しいことである。

実は、本書の世に出るにあたって、この私とも少なからざるご縁があるので、これは、心から喜ぶべきことなのだ。世の中には、実にいろいろなセラピストがいて、俺が先に見つけた、私が先よなどと、本来最も大切なクライエントやペイシャントを放っておいてその先陣争いにかまけたり、クライエントがとても迷惑しているのに、その気も知らず、実は自分が押し付けていることにも気づかずに、とくとくとセラピーをしている積りになっている輩があったり、アクスラインがあれほど懇切に述べているのに、クライエントの自由をちっとも守っていなかったりする輩とか、実に喧しい限りである。

ところが、この「布コラージュ」は、これを取り入れている、どの「場」も和やかで、実に落ち着いた雰囲気がある。クライエントやペイシャントも、一等最初だけは、おっかなびっくり、一体これから何が始まるのだろうか? と訝ったりしたことはあったかもしれないが、ひとたび、布に触れ、この方法のさなかにはいり込んだら、もう、その素敵に爽やかな感触や懐かしい温かな感触の魅力に、一気に取りつかれて、本当にセラピューティックな「場」が一気に現成する。次のセッションから、実は、クライエントの方から、わくわくとしてその場に現れることが多いと言ってもいいくらいなのだ。

それには、実は、ちゃんとした理由があり、隠し味がある。

まず、第一に、「布」という素材そのものの持つ本質からして、「つつみこみ」「あったかくし」寒冷からも、暑すぎる日差しからも、また、人びとの視線からすら「まもる」ものなのであり、「お洒落で」「引き立て役で」「つつましやかに」装ってくれるものなのであるから、これは、本来上質のセラピーを守るものそのものなのである。

更に、このセラピーを思いついた藤井さんその人が、とても気のつく女性であることだ。しかも、そっと寄り添い、それとなく気遣い、それとなく支えていながら、本人は決して前に出ず、大抵、クライエント本人自身が、自分で気づいたかのような雰囲気に、いつの間にかなってる、という類の人なのである。これぞ、セラピストに要求される基本的資質なのであるが、私は、一等最初に彼女が私の前に現れた時に、すでにこの方法のよさと彼女のこの資質に気づいたのだったのだが、本書が、こうして世に出ることになって、それは、見事に証明されたのであり、その直観は間違っていなかったと思っている。

とまれ、本法が、我が国の心を悩む方々には勿論のこと、世界中のそうした方々に、そして、心の悩みなど全くないという方々にも、ふと寄り添える方法であることを確信する。私自身も、そっと時折行っているのだが、これは、本当にいい方法なのだ。

2018年8月21日  宇治の草庵にて

山中康裕(京都ヘルメス研究所・京都大学名誉教授)

作品

本書で紹介されている布コラージュ作品

目次

刊行によせて
はじめに

1 どのような経緯で布コラージュ法は生まれたのか――かつての少女の物語

2 導入方法

3 出会いの物語

4 郵送による「交換布コラージュ」

5 布コラージュ法――布と触角とコラージュをめぐる考察

今、なぜ「布コラージュ法」なのか

あとがき

書誌情報

関連情報