(第4回)“低く見られる仕事”に就くということ — スティグマと自尊心の心理
世界の心理学研究ノート(綿村英一郎)| 2026.07.15
今日も人の心をめぐる実験や調査が世界中で行われています。その結果は,私たちの日常や社会をどう照らしているのでしょうか? 本連載では,国内外の心理学研究を手がかりに「人はなぜそう考え,そう振る舞うのか」を考えます。難解に見える研究をできるだけ平易な言葉で紹介しつつ,心理学者である筆者がその面白さ,応用の可能性,違和感,限界などについて率直にお話しします。研究は万能な答えではなく,思考を広げるヒントです。研究室と日常のあいだを行き来しながら,心の世界を一緒に探りましょう。(毎月中旬更新予定)
「この仕事はちょっと……」と感じたことはないでしょうか? 明確な理由は説明できなくても,なんとなく距離を置いてしまう職業。私たちは日常の中でそうした勝手なイメージを無意識のうちに抱きながら生きています。むろん,それは職業に限った特別なことではありません。基本的に,人は限られた情報の中で世界を理解していますので,物事にラベルを貼りたがり,即時的に評価を下してしまいます。職業の場合なら,「安定していそう」,「大変そう」といったものから「関わらないほうがいいかもしれない」といった印象までその幅は実にさまざまです。しかし,その評価が向けられる側にとって,それはどのような意味を持つのでしょうか? もし自分が,職業的に“低く見られる”側に立ったとしたら? 社会からのまなざしは,当事者の感じ方や振る舞いにどのような影響を与えるのでしょうか? 今回はいわゆる低く見られる仕事に就いた人々が,自分の仕事や社会からの評価をどのように受け止め,どのように自尊心を保とうとしているのか,心理学の研究を手がかりに考えていきます。
綿村英一郎(わたむら・えいいちろう)大阪大学大学院 人間科学研究科 教授。
東京大学文学部卒業。公務員として数年勤務したのち大学院に進学,博士号取得(東京大学大学院,2012年)。慶応義塾大学で特別研究員,東京大学で助教を経て,2017年4月に大阪大学に准教授として着任。2025年4月から現職。研究テーマは安楽死法,AIと法,児童虐待,少年法など司法と心理学の結節点に展開する諸問題。論文,学会発表は多数(参考URL:https://researchmap.jp/watamuraeiichiro)














