『数理とデータで読み解く日本政治』(編著:浅古泰史,善教将大)

一冊散策| 2025.09.24
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はしがき

「政治」について、よくわからず、得体の知れないもののように感じる人は多いだろう。しかし、そのように感じる一方で、わたしたちはさまざまな政策の原資となる税金を、日々、納めている。 2025 年に話題となった「令和の米騒動」1 つをとってみてもわかるように、政府がどのような政策を行うかによって、わたしたちの生活は大きく変化する。医療や介護、年金は言うに及ばず、物価も、金利も、景気も、さらには子育ても、そして教育も、すべて政治によって決められる。政治は、わたしたちの生活を豊かにもするし、逆に貧しくもする。だからこそ、得体の知れない遠い存在として見て見ぬふりをするのではなく、冷静な視点で日本政治の実態を理解できるようになってほしい。日本政治の現状を知り、分析できるようになることは、日本で生活するわたしたちにとって、とても重要なことだ。

本書の目的は、日本政治、そしてそこで実行されている政策への理解を、数理分析やデータ分析を通して深めてもらうことである。数理分析とは、複雑な現実を、数学を用いて理解していく試みである。また、データ分析とは、数量的な情報を利用して実態を明らかにする試みといえる。いずれも、日本政治や政策を分析するうえで欠かせない手法だ。

数理分析やデータ分析と聞くと、難易度が高そうだなと身構えてしまうかもしれない。しかし、その必要はまったくない。本書は、数理やデータを使った分析になじみのない読者を想定して書かれている。そのため、(そうした分析に親しんでいる経済学部生に限らない) 大学学部生はもちろんのこと、それ以外の日本の政治と経済に関心のある一般の方々も本書の読者対象だ。本書の執筆陣は、いずれも「わかりやすく、多くの人が数理分析やデータ分析を通して、日本の政治と経済の問題を考えられる本を作りたい」という編者の「わがまま」に応えてくださった。各分野の最前線で研究を行っている執筆陣が、読者の手をとりながら、1 つひとつ丁寧に議論していることが、本書の最大の特徴である。日本の政治・経済を理解するために、政治学者と経済学者がチームを組み、1 つの書籍を作り上げていることも特徴といえる。いずれにせよ本書は、間違いなく、日本政治やそれを取り巻く諸問題を理解するための一助となるだろう。

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本書は、東京経済研究センター (TCER) のコンファレンス事業の一環として企画されたものである。TCER は、日本経済についての理論的・実証的研究をその使命としている公益財団法人である。毎年多くの研究プロジェクトが実施され、多数の研究成果が生み出されてきた。その事業の 1 つである「TCERコンファレンス」は、研究集会をサポートし、その成果を優れた学術書の出版に結び付けるものだ。本書も、4 日間にわたるコンファレンスを開催し、執筆者間で活発な議論を行ったうえで、書き上げられたものである。コンファレンスおよび出版への助成に対し、心より御礼申し上げる。また、TCER 事務局の方々には、煩雑な事務手続きを担っていただきつつ、円滑にこのプロジェクトを進めていただいた。重ねて、感謝申し上げたい。日本評論社の尾崎大輔氏には、企画立ち上げ時から多くのアドバイスをいただき、最後まで全力でご尽力いただいた。尾崎氏無くして、本書を仕上げることは不可能であった。深く、御礼申し上げる。

2025 年 6 月
浅古泰史
善教将大
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