未完の「事後監視・救済型」社会—規制のエンフォースメント確保のための改革を(太田洋)

法律時評(法律時報)| 2025.08.27
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」97巻10号(2025年9月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

バブル崩壊を受けた1997年の金融危機による護送船団方式の解体に伴って、20世紀から21世紀への変わり目において、わが国では、橋本龍太郎政権から小泉純一郎政権までの各政権の下で、「事前予防型」社会(「事前規制・調整型」社会)から「事後監視・救済型」社会(「事後チェック・救済型」社会)への転換というキャッチフレーズが、盛んに叫ばれていた1)

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これは、それまでのわが国では、護送船団方式に象徴されるように、行政(官公庁)が「行政指導」の名の下に、民間企業等に対して箸の上げ下ろしに至るまで細かく介入して、それによって問題の発生を事前に予防するという方式が社会の隅々まで浸透していた状況を改め、予め法律やその委任に基づく政省令等によってルールを定めておいた上で、ルール違反について事後的に責任を問うことでルールの実効性を確保する方式へと、社会の在り方そのものを変革する、という試みであった。要するに、これは、行政指導中心の「事前予防型」社会から、立法府が定めたルールに基づき司法府がルール違反の責任を問うことを基本とする「事後監視・救済型」社会へと、わが国の社会の在り方を変革しようという一大ムーブメントであった。

折しも、今年は2000年から四半世紀が経過する節目の年に当たるが、四半世紀を経て、わが国は、「事前予防型」社会から「事後監視・救済型」社会への変革を成し遂げたといえるのであろうか。

2 道半ばの「事後監視・救済型」社会

確かに、1997年に始まったいわゆる金融ビッグバンにより、特に金融・資本市場の分野では、1998年には旧証券取引法の改正により証券会社の設立・開業が免許制から登録制となり、旧「外国為替及び外国貿易管理法」が「外国為替及び外国貿易法」となって、内外資本取引等の大幅な自由化が実現したほか、為替取引が原則として自由化され、両替商の認可制が廃止されるなど、大幅な規制緩和が実現した。

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脚注   [ + ]

1. 例えば、司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日)9頁、規制改革推進3カ年計画(平成13年3月30日閣議決定)など。