『はじめて学ぶ物理学—学問としての高校物理(下)(第2版)』(著:吉田弘幸)

一冊散策| 2023.06.26
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

あとがき

本書はもともと,大学受験生向けの「物理の教科書」を目指して書き始めました.タイトルも『高校生のための物理学読本』を考えていました.執筆を始めた動機は幾つかあるのですが,付録 D で言及した田崎晴明先生の数学の教科書に刺激を受けたことも,その 1 つです.そこで,ある程度,形になった段階でネットでの公開を始めました.

公開を始めると,高校生や受験生よりも大人の方に興味を示していただき,励ましのお言葉や有益なアドバイスを沢山戴きました.そうすると,何も受験参考書と銘打って刊行する必要はなく,もっと一般に向けた物理学の入門書として出版してもよいかなと考えるようになりました.そこで,タイトルも『はじめて学ぶ物理学』に変更しました.

しかし,本書の守備範囲は高校物理の範囲に留めました.これには複数の理由があります.

まずは,当初の目的である大学受験生に対する「教科書」としての機能を維持したいということがあります.高校生や受験生の方も,本書を使いこなしてもらえれば,受験対策としては必要かつ十分な内容になっています.次に,専門家の方の中には「高校物理」を軽んじる方もあるかも知れませんが,物理学の論理は高校物理の中にも十分に現れています.本書の内容を基本的な思想面でも習得していただければ,さらに専門分野の学習に進んだ場合にもスムーズに学習を進めることができます.大学 1 年生の方にも,高校物理をあまり詳細に学ばなかった方には,本書は専門的な学習の準備として最適です.高校物理でも,ここまで精密な議論ができるということを示すことも本書の目的の一つです.

ところで,筆者は,高校で学習される科目の中で「物理」が最も論理の明快な分野だと思っています.学問,あるいは,科学とは,知識の論理的な体系です.学問を修得するためには,その論理を精確に追跡することが大切です.高校物理は,その訓練の道具として最適な題材となります.文系の分野に進む方であっても,そのような意味で物理学を学ぶ価値があると考えます.しかし,学校で履修するとなると相当な時間と労力を必要とします.文系の大学受験生でも,余暇の時間に本書を読んでもらえると嬉しく思います.きっと得るものがあると信じています.

もちろん,すでに,学校を離れた大人の方でも,物理ファンの方には本書を楽しく読んでいただけると思います.ご自身が高校のときには学べなかった「学問としての高校物理」の姿をお見せできると自負しています.そのような方は,本書に続けて,是非,付録 D で紹介した専門書にもチャレンジしてください.さらに魅惑的な物理学の世界が広がっています.このような目論見を持って本書を完成させました.高校生から大人の方まで,そして,理系・文系を問わずさまざまな分野の方々に本書が愛読されることを期待しています.

本書が出版できたのは,さまざまな方のお力添えの賜物です.この場をお借りして,謝辞を述べさせて戴きます.

まず,編集を担当してくださった亀井哲治郎氏のお力添えがなければ,本書が発刊されることはありませんでした.内容面に関しても多くの示唆を戴きました.特に,第 VI 部の第 1 章は,亀井氏のアドバイスに従って追加したのですが,流れがスムーズになり第 VI 部全体が引き締まりました.また,校正の段階では誤植の指摘だけではなく,私の日本語の癖も修正してくださり,本書を読みやすく整えてくださいました.図版のレイアウトなども含めて本書の体裁を整えてくださったのは亀井氏の奥様です.本書はフリーの製版ソフトである LaTeX を使って作成しましたが,私の作った乱雑な草稿を読者の方に読みやすく整えてくださいました.亀井氏と奥様に心よりの御礼を申し上げます.

亀井氏にお引き合わせくださったのは,高校の教員をされている児玉照男氏と科学ジャーナリストの内村直之氏です.児玉氏は,私が出版の希望をもっていることを亀井氏にお伝えくださいました.しかし,児玉氏は私への直接の連絡方法はご存じありませんでした.ところで,2017 年度の大学入試に纏わる騒動をきっかけに内村氏と Twitter で知り合うことになりました.亀井氏から相談を受けた内村氏が,私のメールアドレスを伝えてくださり,亀井氏と私が直接連絡をとることができました.一方で,それとは独立に,児玉氏も筆者の勤務校の連絡先を調べてくださり,亀井氏と引き合わせてくださるように手配してくださいました.お二人の御尽力がなければ亀井氏にお会いすることはなく,本書の出版も危うかったでしょう.

本書の表紙のデザインは銀山宏子氏がお引き受けくださいました.私が本書に込めた気持ちを見事に具現化してくださっています.書店で見かけた方に私の気持ちが伝わり皆様に読んでいただけているのだと思います.

ネットで草稿を公開している間に,多くの方から指摘や示唆をいただきました.特に,斉藤茂和様,福田宣之様,福滿尚洋様は草稿の全体を詳細に検討くださいました.その他にお名前を存じない方からも貴重なご意見を多数いただきました.いずれのご指摘も本書の完成に反映させていただいています.この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います.なお,本書の記述内容の責任は,もちろんすべて筆者である私にあります.

本書の内容は,私が勤務する塾のひとつである科学的教育グループ SEG での高校 2 年生に向けた授業の内容 (SEG では 2 年生の間に高校物理の理論をほぼ一通り学び,3 年生になると入試に向けた問題演習を行っています) に準拠しています.これまでに私の講義を受講してくれた優秀な若者達から刺激を受けて,私自身の物理学への理解を深めることができました.また, SEG の同僚達とは普段から日常的に示唆に富む議論を行うことができました.これらの経験が本書の成立の大きな原動力になっています. SEG の同僚の幾人からは,草稿に対して誤植等の指摘もいただきました.

最後に,日曜日も朝からパソコンに向かっていた筆者を暖かく見守ってくれた妻と二人の息子にも感謝します.高校生になった彼らに本書を読んでもらえることを楽しみにしています.

2019 年 4 月

吉田弘幸

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