『はじめて学ぶ物理学—学問としての高校物理(下)(第2版)』(著:吉田弘幸)

一冊散策| 2023.06.26
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はじめに

この下巻は,「電磁気学」,「光波」,「原子」の 3 部構成になっています.

電磁気学は 19 世紀に発展した分野です.19 世後半にはマクスウェルの理論が確立し,光が波であることも解明されました.当時の人々の中には物理学が完成したと思った人もいます.ところが,技術の発展に伴いミクロな現象も観測できるようになると,その物理学では説明できないっさまざまな現象が観測されるようになりました.20 世紀の初頭には,それらの現象を説明するための新しい理論の研究が盛んに行われ,革命的な理論体系である量子力学が確立することになります.量子力学以降に発展した物理学を現代物理学と呼んでいます.

本書が扱う内容は,電磁気学の発展から量子力学が確立する直前までの物理学です.

各部ごとで完結した内容になっていますが,それぞれ,それよりも前の部の理解を前提して記述した部分もあります.上巻をまだお読みでない方は,是非,上巻から読み始めていただきたいと思います.物理学は,ニュートンが確立した力学の理論から発展が始まりました.その後,熱学,電磁気学が発展していきました.この歴史的順序には必然性があったと考えます.したがって,物理学の学習者も,この順序に沿って学ぶことによりスムーズな理解を得ることができるでしょう.

上巻の「はじめに」にも記した本書の読み方と注意事項を再掲しておきます.

本書の守備範囲は高校物理の内容に限定していますが,本書は物理学の法則と理論の紹介を目的に書かれています.理論を精密に紹介するためには論理を飛ばさずに記述する必要があります.そのため,高校物理の本としては,やや日本語の説明が多いかも知れません.しかし,ある分野で用いられる言葉を使いこなすことが,その分野を理解することを意味します.注意深く読むことにより,物理学の基本的な考え方 (大袈裟な言い方をすれば「思想」と表現してもよいかも知れません) を身につけることができます.したがって,最後まで読み通して戴ければ,本書がみなさんの物理学の学習の強い手助けとなると信じています.ただし,そのためには,自分の頭で悩みながら読み進めることが必要です.必要に応じて,計算用紙を用意して,自分の手で計算も再現し,苦しみながら読み進めることを楽しんでください.

本文中で〈発展〉とある部分は議論の本題に関わる内容ですが (主に数学的に) 難しい記述を含む部分です.また,〈参考〉とある部分は議論の本題から離れる内容であり,発展的な記述を含む場合もあります.いずれも,物理を初学の方や大学入試を目標としている方は読み飛ばしても問題ありません.〈やや発展〉とある部分は,計算過程は読み飛ばしても構いませんが,結論は確認してください.

第 2 版にあたって

本書の初版を発行してから約 4 年になります.多くの読者の方にご支持いただき,順調に版を重ねることができました.そして,この度,改訂版として第 2 版を発行できることになりました.

今回の改訂では,次の点を重視しました.

  • 2022 年に実施された指導要領の改訂にあわせて用語と項目を調整しました.
  • 本書だけでも受験対策として十分な学習ができるように例題を補充しました.
  • 余裕のある読者にも楽しんでいただけるように発展的な項目を追加しました.

また,受験生や大人の方だけではなく高校 1 年生や中学 3 年生くらいの方にも読みやすいように,日本語の表記と表現を少し改めました.さらに多くの読者に本書が届くことを期待しています.

2023 年 5 月

吉田弘幸

ページ: 1 2 3